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議員定数違憲訴訟
Y.M.記

 私たちひとりひとりが政治に参加するための権利として重要になってくるのが、選挙権です。そこでは、一定年齢に達した個人ひとりひとりに対し、平等に1票の投票権が保障されることが求められます。このことは、日本国憲法14条の平等条項や、選挙人の資格の平等について定めた同44条但し書きからの要請ともいえるでしょう。
 けれども、いくらひとりに同じ1票が確保されているとはいっても、それぞれの住む選挙区において有権者人口にあまりにも開きがあるようであれば、選挙結果における有権者の1票のもつ重みは変わってきてしまいます。
 例えば、有権者数が20万人であるA選挙区でも5名の議員を選出、100万人であるB選挙区でも5名の議員を選出するとします。そうなると、同じ1名の議員を選出するのにも、単純計算で、A選挙区では4万人で足りるところB選挙区では20万人の票が必要となってきます。つまり、数の上で同じ1票でも、選挙結果の帰趨を決める「投票価値」の上では質的な不平等が生じてくることになるのです。これが「1票の較差」という問題であり、これを巡っては「議員定数不均衡」の違憲性の問題として、これまでにも多くの訴訟が起こされてきました。

 この問題は、1972年12月10日に実施された第33回衆議院議員総選挙についても生じました。当時の千葉県第1区の選挙人であったX氏が、国政選挙の効力に関する訴訟について定めた公職選挙法204条に基づいて、同選挙の無効を求める訴えを起こしたのです。X氏によれば、この選挙の議員定数を定めた公職選挙法別表第1では、兵庫県第5区と千葉県第1区の議員1人あたりの有権者比率は4.81対1の較差をもたらすことになり、このことは住所地によって国民を不平等に扱うことに他ならないことから、憲法14条に反してこの選挙自体が無効である、というのでした。

 1974年4月30日、第1審の東京高裁は、本件の「投票価値」の不平等は容認できない程度にあるとまではいえないとして、原告X氏の訴えを退けました。そこでX氏は上告します。
 そして、これを受理した最高裁は、1976年4月14日、本件選挙の公職選挙法における議員定数配分規定は憲法の平等条項に反して違憲である、という画期的な違憲判断を行ったのです。最高裁いわく、選挙の区割と議員定数配分の問題をどのような基準によって決するかは国会の裁量による問題ではあるが、しかし、このように考えても「具体的に決定された選挙区割と議員定数の配分の下における選挙人の投票価値の不平等が、・・・一般的に合理性を有するものとはとうてい考えられない程度に達しているときは・・・このような不平等を正当化すべき特段の理由が示されない限り、憲法違反と判断するほかはないというべきである」。けれども、「本件議員定数配分規定は、本件選挙当時、憲法の選挙権の平等の要求に違反し、違憲と断ぜられるべきものであったというべきあ」り、「全体として違憲の瑕疵を帯びるもの」といえる。以上のように最高裁は判示して、本件選挙は違法であるという判断を行ったのです。
 もっとも、最高裁は、これに続けて、本件選挙が違法であるとはいってもこの選挙自体を無効とすると「明らかに憲法の所期しない結果を生ずる」ことになるから、本来法的には予定されていない「高次の法的見地から」、違法ではあっても公共の福祉の観点から実際の効力を否定しないという、いわゆる行政事件訴訟法31条の「事情判決の法理」を用いて、本件選挙自体は無効としないと結論づけたのでした。

 最高裁による本判決は、これまではっきりと憲法上の要請とはされてこなかった「投票価値」の平等をも憲法上の要請とし、しかもそれに基づき本件の議員定数配分を明確に違憲とした点で、極めて画期的なものといえるでしょう。しかし同時に、どの程度の較差が違憲となるかの基準はやはり明確とされず、また最終的に「事情判決の法理」によって選挙そのものは無効ではないとしたことで、議員定数配分を調整・画定する任務を負う国会がそれを怠るのを許すことにつながりかねないという批判も多くなされています。
 この判決以降も現在に至るまで議員定数不均衡を争う訴訟は数多く提起されているものの、やはり依然として、この判決が残した問題点は未解決のまま残されています。民意をしっかりと反映させることのできる選挙制度自体はもちろんのこと、選挙区間で平等な「投票価値」を確保・実現させるための国会の努力を注視していく必要があるように思います。

<寄稿>一票の格差と地域間の経済格差

桜井邦彦(千葉県在住・法学館憲法研究所賛助会員・55歳)

民主主義の基本である参政権をひとりひとりが平等に行使できるという憲法原則から、衆議院2.2倍、参議院4.8倍という一票の格差はあきらかに不平等である。
この格差を認める側からは「地方は都市部に比べていろいろなハンディキャップがあり、議員定数を多く与えないと都市部との競争においてますます不利」ということがいわれてきた。それに対して、一票の格差是正を求める側からは、「利益誘導を是認・奨励する制度となっている」との批判がなされている。
昨今大きな問題になっている地域間の経済格差拡大について、一票の格差との関連を考えると、以下のような実態がある。
・不平等な一票の格差が長く続いてきた(憲法14条・44条の「法の下の平等」への疑念)。
・国全体のことより選挙区利益誘導が多く行われてきた(憲法43条の「全国民の代表」への疑念)。
それにもかかわらず、米国を中心にしたグローバル化する市場原理主義への追随、それを実現するための構造改革重視の政策により、地方より都市・弱者より勝者(強者)を優先した結果、地域間格差は広がり続け、先の参議院選挙では政権与党が大敗した(特に地方一人区)。
現在の選挙制度において一票の格差を限りなく1倍(平等)に近づける区割りが実現できたとしたら、地方を選挙区とする議員が減り都市部を選挙区とする議員が増えることになるだろう。これは、さらなる地域間格差の拡大につながるリスクがないだろうか。
私は、現状の一票の格差の大きな不平等の存在は違憲でありその是正が必須であることを認めながらも、一票の格差是正を求める側が都市部の多数者という「強者」の側であることに、少数者の意見切り捨てが横行したこれまでの国会を見て懸念も感じるのである。そのようにならないためには、憲法43条の「両議院は、全国民を代表する選挙された議員でこれを組織する。」(*)ということを、議員だけではなく主権者である私たち国民自身も強く自覚することが重要であると再認識した。

(*) 18世紀後半の英国の政治家エドマンド・バークは、自分の選挙区であるブリストルの有権者たちに、「皆さんが代表を選んだ瞬間から、彼はブリストルの議員ではなく、英国議会の成員となる」と演説したことで知られています。バークの発言の精神は、憲法43条の精神でもあります。(『いま知りたい日本国憲法』東京新聞政治部編 講談社 2005.11.7発行より)。