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東京(2)

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立川テント村ほかビラ配布事件
Y.M.記

 表現手段のひとつとして、ビラの配布という方法があります。作成するのも手軽で安価にできるというメリットがあり、誰でも利用できる簡便な表現手段であるといえます。ところが昨今、とりわけ東京を中心に、こうした一部のビラ配布を刑事的に取り締まるというなんとも異常な事態が頻発するようになってきています。

 (1)2004年2月27日、立川警察署は、自衛隊立川駐屯地官舎の集合ポストに「自衛隊のイラク派兵反対」を内容とするビラを投函してきた、いわゆる「立川自衛隊監視テント村」のメンバー3名を、刑法130条の住居侵入罪で逮捕し、後に彼らは起訴されました。また、(2)2004年12月23日には、葛飾区のマンションで日本共産党の都議会報告などを投函していた僧侶・荒川庸生さんが、住民の通報で駆けつけた警察官に身柄を拘束され、後にやはり住居侵入罪で起訴されています。
 そして、(3)2004年3月3日、月島警察署は、休日に中央区の自宅付近で「しんぶん赤旗号外」を配布していた社会保険庁職員の堀越明男さんを、公務員の政治活動を制限する国家公務員法(国公法)102条1項と人事院規則14-7の6項7号・13号に違反したとして逮捕、後に堀越さんは起訴され、さらに同様に、(4)2005年9月10日には、世田谷区内の住宅の集合ポストに「しんぶん赤旗号外」を配布していた厚生労働省職員の宇治橋眞一さんが、当初は住居侵入罪で世田谷警察署によって逮捕、後に宇治橋さんもやはり国公法及び人事院規則違反で起訴される事態に至っています。

 もっとも、これらの内(1)については、2004年12月16日、東京地裁八王子支部が無罪判決を下しています。同裁判所によれば、被告人らの行為が住居侵入罪の構成要件に該当することは認めたものの、その行為は刑罰に値するほどの違法性の程度は低い。そして、なによりも被告人らによるビラの投函という行為自体が、日本国憲法21条1項の保障する政治的表現活動の一態様であり、民主主義社会の根幹をなすものとして、商業的ビラなどよりも優越的地位が認められている。以上のように、同裁判所は判断して、結論としては憲法上の表現の自由が厚く保障されることを宣言したのでした。
 また、(2)についても、2006年8月28日、東京地裁は、荒川さんの表現の自由については深く踏み込まなかったものの、荒川さんが行ったようなビラ配布行為は「社会通念上」禁止されてはおらず、また、そのためのマンション立ち入りについても「正当な理由」がないとはいえないことから住居侵入罪にはあたらないとして、無罪判決を言い渡したのです。

 けれども、一方で、これらとは反対の司法判断も出されています。(1)についていえば、2005年12月9日に東京高裁において、被告人を有罪とする逆転敗訴の判決が下されていますし(被告側は即日上告)、(3)についても、2006年6月29日、東京地裁は、時代錯誤として従来から学界の批判も多くさらには審理の過程で様々な法分野の専門家などによっていよいよその不当性が明らかにされた国公法と人事院規則に基づいて、堀越さんに対し罰金10万円・執行猶予2年というなんとも説得力を欠く有罪判決を言い渡したのでした(堀越さんは即日控訴)。

 これら一連の事件では、公権力側が、これらの市民による表現活動を日常的に監視していた一端も明らかになってきています。(1)では、今年6月にも自衛隊情報保全隊による日常的な市民への監視活動の実態を明らかにした日本共産党が、10月12日付「しんぶん赤旗」紙上で、自衛隊情報保全隊が本件の被告を含む「立川自衛隊監視テント村」メンバーの身元や動向を監視し、さらに立川署が自衛隊側に対し逮捕のための協力依頼をしていた内部文書の存在を明らかにしました。また、とりわけ(3)では、裁判の審理の過程で、公安警察が堀越さんをかなり長期にわたって尾行し、堀越さんのビラ配布だけではなく私生活までをも盗撮していた実体も明るみに出てきました。
 これらの事実からすれば、(1)で東京地裁判決が「本件各公訴提起には、ビラの記載内容を重視してなされた側面があることは否定できない」と述べていたように、まさにこれら一連の事件では、被告となった方々の表現内容そのものが公権力によって狙い撃ちにされたという疑念を払拭することはできないでしょう。もしそうであるとすれば、民主主義国家にあるまじき、なんとも異常な事態であるといわざるをえません。
 立憲主義の観点からも、むしろますます市民の側が、公権力の動向を絶えず監視していくことが強く求められています。


【参考資料 ― 当サイト「今週の一言」】
■大洞俊之さん(立川テント村事件被告団)
■内田雅敏さん(同弁護団)
■小沢隆一さん(東京慈恵医大教授 *執筆時は静岡大学教授)