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市民オンブズマン福井・「カラ出張」裁判
K・T記

情報公開法の施行は2001年(1999年公布)4月でしたが、それに先立ち各地方自治体レベルでの不正な公金支出に対して情報公開を求める市民運動の大きな広がりが背景にありました。その中で大きな役割を果たしたのが、各地の市民オンブズマン活動と全国市民オンブズマン連絡会のパワーでした。
今回とりあげる福井における「カラ出張」裁判も、福井の市民オンブズマン並びに全国市民オンブズマン連絡会の活動を抜きにして語ることはできません。

市民オンブズマン福井が誕生したのは、1998年。その後現在に至るまで10年に及ぶ活動の中でさまざまなとりくみを行っていますが、最初の裁判運動となったのが、この「カラ出張」裁判でした。事実経過は、概略以下のとおりです。

事の発端は、97年12月に福井県の「カラ出張」が発覚したこと。これを一つの契機に、市民オンブズマン福井が発足します。県では、旅費調査委員会並びに監査委員事務局旅費調査委員会(以下、旅費調査委員会等)が設置され、98年3月、旅費調査委員会が調査結果を発表。幹部職員らは、事務処理上不適切とされた支出21億円余の内、4億7千万円弱は県に返還しますが、残り17億円弱については公務遂行上の経費に充てられたものとして返還しませんでした。
98年8月、市民オンブズマン福井は未返還分17億円弱につき住民監査請求を行ないますが、同年10月、県監査委員はこれを却下。市民オンブズマン福井は、メンバー住民を原告、元福井県知事を被告として、福井地方裁判所に損害賠償請求事件を提訴します。
99年7月の第1審判決、引き続く控訴審で00年3月に出された名古屋高等裁判所金沢支部の第2審判決は、いずれも監査請求期間徒過と対象の特定に欠けることを理由に却下。門前払いの判断でした。原告(控訴人)らは、最高裁に上告。この上告審で、04年12月7日画期的な判決が下されます(最高裁第三小法廷判決)。「住民監査請求においては、その請求対象が特定の財務会計上の行為等であることを監査委員が認識することができる程度に適示されていれば足り、本件では旅費調査委員会等が個別不適切かどうかについて調査したものを請求対象としているのだから、1件ごとに適示されていなくても監査委員は請求対象を特定して認識することができる程度に適示されていた。したがって対象の特定に欠けるところはない」というもの。その結果、監査請求期間を経過していた支出負担行為および支出命令に係る部分を除いて、原判決破棄、第一審福井地方裁判所に差し戻されるのです。
差し戻された福井地方裁判所では、06年12月7日の判決で、被告である元福井県知事に対し、1億1000万円近くを県に支払う(返還する)よう命じました。これを不服として元福井県知事は控訴。そして、本年08年2月20日、名古屋高裁金沢支部は、控訴人の主張を容れ、住民側の逆転敗訴・上告という流れを経て、舞台は再び最高裁へ。事件は08年9月現在、まだ終結していません。
(以上記載の一部は、市民オンブズマン福井編『一人ひとりがオンブズマン―市民オンブズマン福井10周年記念誌』を参考にさせていただきました。)

04年12月に原審の一部破棄、一審への差戻しを命じた最高裁判決は、住民監査請求対象の特定の程度について新しい判断を示したことで注目されていますが、より具体的な本件の争点は、(1)元福井県知事の指揮監督義務違反の成否、(2)損害の有無及び額、の2点でした。これを06年12月差戻し後の第一審の判断で追ってみますと、(1)については、住民側が膨大な作業を厭わず作成した新聞報道資料に基づく全国の“カラ出張”状況や全国市民オンブズマン連絡会のとりくみを踏まえて、元福井県知事には「県の旅費支出に関する専決権者の違法な支出行為があることについて具体的な予見可能性があり、(中略)各部局に対して旅費支出の実情の調査を命ずべき義務があった」のに、これを怠ったとして指揮監督義務違反を認め、(2)それにより損害が発生したものとして、監査請求対象とされた期間分の不正支出金額を日割り計算し、損害額を確定した、という内容。住民の目線に立った判断がなされていることが分かります。
これに対し、08年2月になされた高裁判決は、(1)架空の旅費支出がなされていることにつき、一般的・抽象的な予見可能性は認められても、旅費節減や予算の適正執行の指示通知をこえる具体的な指揮監督上の措置を必要とするような具体的な予見可能性は認められず、指揮監督の懈怠は認められない、として(2)元福井県知事に損害賠償責任は発生していない、としました。さらにわざわざ本判決は、旅費調査委員会が「予算の組立てや運用及び旅費制度が硬直化し、実態に即した予算執行が困難になっていた」と、カラ出張が組織的な問題であったことを分析指摘しているにしても「そのような状況が直ちにカラ出張等の違法な公金支出を誘発するものではない」とまで判示しているのです。これでは司法が、地方行政の長の職務怠慢に、いわばお墨付きを与えるようなものだと言ったら言い過ぎでしょうか。全体として本判決は、形式主義・建て前論に終始し、一般住民の意識から乖離したものに思われます。

情報公開は、公開それ自体が最終目的ではありません。公開された情報を元に、他人まかせ、政治家まかせにしないで、一人ひとりの市民がおかしなことはおかしいと異議申し立てをする、第三者による監視とチェック体制を機能させること。それこそが健全な地方自治の発展を促し、憲法にいうところの“地方自治の本旨”の体現となるのではないでしょうか。その意味で、市民オンブズマンによるこのような裁判運動は、個別判決内容の“勝敗”にとどまらぬ大きな意義をもつものといえましょう。

コメント「カラ出張事件についての2008年9月時点でのまとめ」

吉川健司(市民オンブズマン福井幹事・弁護士 法学館憲法研究所賛助会員)

1 まだ最高裁判決が出されていない段階であり,総括には早すぎるので,2008年9月時点でのまとめを述べておきます。なお,私自身は2001年10月に弁護士登録をしてから弁護団に入ったに過ぎず,カラ出張事件において果たした役割は途中からのわずかなものなので,本来はまとめを述べることができるような立場にはないのですが,僭越ながら述べさせていただきます。
2 カラ出張事件について今日まで裁判を続けることができているのは,1997年12月にカラ出張が発覚した時から,献身的にこの問題に取り組んできた多くの会員のおかげです。とりわけ,市民オンブズマン福井の初代代表幹事であり,住民監査請求の段階から市民と一緒に取り組んできた湯川二朗弁護士,自ら住民監査請求の請求人となり,現在の代表幹事でもある坪田康男弁護士,このお二人の長年にわたる粘り強い努力によるところが大きいです。
3 この裁判への取り組みによる成果としては,住民監査請求の対象をどの程度まで特定しなければならないのかという問題について,請求対象の特定を求めた最高裁第三小法廷平成2年6月5日判決(判例時報1372号60頁)の適用範囲を明確にし,住民監査請求を行いやすくしたという点があげられます。
  すなわち,どの財務会計行為が違法であるとして住民監査請求を求めるかを明らかにしなければ,監査委員も監査できないため,請求対象の特定が求められます。しかし,監査請求を行う住民には限られた情報しかなく,費やすことが可能な費用,時間等にも限界があるため,請求対象の特定には限界があります。不可能なまでの特定を求められた場合,住民監査請求は事実上機能しません。
  福井県で行われたカラ出張は,福井県が設置した旅費調査委員会の調査により,約4年間分だけで,件数は15万5465件,金額は21億6203万円になることが明らかになりました(このうち,約4億円が職員らにより返還されました)。これら全てについて,1件ごとに金額を特定しろといわれても,住民には不可能です。それゆえ,住民たちは,旅費調査委員会の発表に基づき,件数と未返還の金額を明記して,カラ出張に支出された旅費の返還を求めて住民監査請求を行いました。
  ところが,非常識にも,当時の福井県の監査委員たちは,1件ごとに金額を特定しろと命令し,あろうことか,福井地裁及び名古屋高裁金沢支部の裁判官たちは,かかる命令を追認する判決をしたのです。
  さすがに,上告審である最高裁第三小法廷平成16年12月7日判決(判例時報1886号36頁)は,監査請求の対象は特定されているとしました。
  これによって,監査請求においては,監査委員が監査対象を認識できる程度に特定すればよいということになったのです。
  読者の方には,成果がこの程度なのか,と拍子抜けする方がいるかもしれませんし,そのように思われるのも十分に理由があります。
  しかし,この程度の成果を勝ち取るためであっても,6年以上も裁判をしなければならないのが,日本の裁判所の現実であるということも分かっていただきたいと思います。
4 残された課題は,自治体の首長は,どの程度の指揮監督義務を負うべきかという問題です。
  この点については,法学館憲法研究所の方の上記記事の内容に尽きています。
  相手方である元福井県知事が知事に就任していた期間において,監査委員事務局を含む県庁の全ての部局において不正支出が蔓延し,21億円を超える税金の不正支出がありました。元知事が,このような事態を認識していたのか否かについては争いがありますが,認識していなかったとしても,それ自体が問題だと言えるでしょう。ところが,このような事態を放置しておいたとしても,元知事には何の責任もない,というのが,2008年2月20日の名古屋高裁金沢支部判決の内容です。
  裁判官の非常識を是正するたたかいは,上告審において続いています。全国のみなさんの支援をお願いいたします。
5 なお,宣伝にはなりますが,本件については,市民オンブズマン福井編『一人ひとりがオンブズマン―市民オンブズマン福井10周年記念誌』に詳しく記載されていますので,より詳しく知りたいというお方は,この記念誌をお買い求めいただければ幸いです。ご注文は,FAX0776-21-6388まで,お名前,連絡先,送付先,注文冊子数を明記の上,お願いいたします。