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岐阜(2)

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岐阜県青少年保護育成条例事件
Y.M.記

 以前に宮崎編の「コンピュータ・ゲームソフト有害図書指定事件」でも取り上げたように、未成年者の「知る権利」は、青少年の健全な育成をはかるという名目の下でしばしば制約されることがあります。しかしながら、いうまでもなくそこには、「壊れやすく傷つきやすい」ものとして憲法が手厚く保障している「表現の自由」が損なわれる契機が潜んでいることも見逃してはなりません。「岐阜県青少年保護育成条例事件」も、まさにこの点が争われた事件のひとつです。

 岐阜県青少年保護育成条例は、県知事が「青少年の健全な育成を阻害するおそれがある」図書を「有害図書」として指定し、さらにそれに指定された図書類を青少年に販売したり自動販売機に収納して販売することを業者に対して禁じています。
 ところが、三重県四日市市に在住し自動販売機による図書の販売を生業とする会社の代表取締役は、岐阜県内で「有害図書」に指定された図書を、にもかかわらず5回にわたり自動販売機に収納したのでした。このことから、この代表取締役は、本条例違反で起訴されます。そして、1987年6月5日、第1審岐阜簡裁は罰金6万円の有罪判決を言い渡し、同年11月25日、第2審名古屋高裁もこの代表取締役の控訴を棄却したのでした。
 これを不服として、この代表取締役は、最高裁に上告します。その上告理由によれば、(1)岐阜県青少年保護育成条例における「有害図書」指定制度は、表現の自由を定めた憲法21条に反しており、(2)同条例における「有害図書」の定義が曖昧なため、これは法の適正手続について定めた憲法31条に反しており、さらに(3)「有害図書」指定制度の要件や罰則には各都道府県によってばらつきがあり、これは法の下の平等を定めた憲法14条に反しているというのです。

 1989年9月19日、最高裁は、この代表取締役の主張をことごとくしかもあっさりと退け、この上告を棄却する判決を下しました。最高裁によれば、本条例が定める「有害図書」が青少年の性に悪影響を及ぼすということは、「既に社会共通の認識になっているといってよ」く、また購入の手軽な自動販売機でそれらの図書が販売されることは、「書店等における販売よりもその弊害が一段と大きいといわざるをえない」。従って、こうした状況に「有効に対処するために」、「有害図書」の自動販売機への収納を一律に禁じることには、「必要性があり、かつ、合理的であるというべきである」。
 以上のように最高裁は述べ、このような制約は、憲法21条が保障する表現の自由に反するものではないとしたのでした。

 心身共に未成熟な青少年の保護や健全な育成という観点からすれば、最高裁の判決には肯定できる部分もあるといえます。けれども、安易に「社会共通の認識」をもちだして表現の自由や「知る権利」への制約を正当化していることは問題です。これを軽々に認めてしまうと、ひいては多数者の道徳感情によって少数者の意見が、異端なものとしていとも簡単に封殺されてしまうことになりかねないからです。また、そもそも最高裁のいう「社会共通の認識」なるものが、果たして実際に存在しているのかどうか、立証可能なのかどうかも考えてみなくてはならないでしょう。