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森林法共有林事件
Y.M.記

 個人の人権は、他者の人権とバランスをとる必要性から制限される場合もありえます。とりわけ、「経済的自由権」については、国民の健康や衛生に配慮した適正な商業活動を確保したり、大企業の独占的な企業活動から中小企業を保護する場合のように、公権力による規制を受けやすいとされています。これが「公共の福祉」による制約です。このことは、日本国憲法29条2項で規定されているように、個人が自分の財産を所有する権利である「財産権」についても例外ではありません。
 とはいっても、当然のことながら、そのような「公共の福祉」に基づく公権力による規制の目的や手段が、いつも正しいものであるとは限りません。まさにこうした問題が争われ、その結果、最高裁がある法律による規制を違憲と判断したのが、森林法共有林事件です。

 父親に山林の持ち分を2分の1ずつ生前贈与され共有物としていた兄弟が、その山林経営をめぐって対立したことからこの事件は始まります。弟は、兄を被告として、共有物の分割請求について定めた民法256条1項に基づき、山林の分割請求を求めました。しかし、森林の生産力向上を目的として定められた森林法186条では、民法256条1項の規定にかかわらず、森林の持ち分が2分の1以下の共有者による分割請求は認められないとされていました。そこで、原告である弟は、この森林法186条の規定が「財産権」を保障した日本国憲法29条に違反しており違憲であると主張して争ったのです。

 1978年10月31日の第1審静岡地裁判決と1984年4月25日の第2審東京高裁は、森林法186条を合憲と判断し、原告である弟の山林分割請求を退けました。
 しかし、1987年4月22日の最高裁判決は、森林法186条について違憲判断を行い、事件を原審に差し戻したのです。それによれば、森林法186条の目的とは、森林の細分化を防止することによって森林経営の安定化を図ることなどにあり、その目的自体は「公共の福祉に合致しないことが明らかであるとはいえない」。けれども、そのことと「森林の共同経営」を行わなければならないことは直接的な関連をもつとはいえず、また、森林法186条が分割を許さないとする森林の範囲や期間についてまったく定めていないことは規制手段としての必要な限度を超えていることから、こうした規制は「森林法186条の立法目的との関係において、合理性と必要性のいずれも肯定することができない」ことから、森林法186条は日本国憲法29条に違反し無効であるとしたのでした。
 この違憲判決は、財産権に関する初の違憲判決として注目されました。しかしその反面、その規制手段が厳格に合理的なものであるかどうか、あるいはその規制手段の不合理性が明白なものであるかどうかを規制の目的に応じて判断するという、これまで他の「経済的自由権」に関する判例上で展開されてきた違憲審査基準とどのような関係にあるのかは、明らかにされませんでした。なお、この判決から約1ヶ月後の5月27日に、この森林法186条の規定は削除されております(浦部法穂先生の『憲法の本』108頁にも、この事件が紹介されていますので参照してみて下さい)。