法学館憲法研究所は、憲法を系統的に研究し、個人の尊厳の実現をめざす非政府組織としての自由な研究機関です

法学館憲法研究所

Mail info@jicl.jp


 

滋賀(2)

<<戻る
進む>>
一覧表へ>>
永源寺第二ダム訴訟
H.T.記

 今、無駄な公共事業の見直しが強く叫ばれています。たくさんの訴訟も起こされています。しかし、ほとんどの訴訟では「原告適格」がないとされ門前払いされて来ました。

 そんな中、大阪高裁は、本件訴訟で、ダムの計画を取消しました。公共事業の計画決定の調査のずさんさを理由に違法とした初めての判決であり、また単独ダムとしては計画を取消した全国初の判決です(05年12月8日)。

 滋賀県の東部に琵琶湖に流れ込む愛知川があります。ここに、1972年にかんがい・水力発電用として永源寺第一ダムが完成しました。このときは「これで農業用水は万全」と言われました。しかし、それから10年余り経って、再び「農業用水の不足解消」を理由として、さらに上流の茶屋川に、1市8町の農地のかんがいを目的とする永源寺第二ダム建設計画が持ち上がりました。これに対して住民らは、1994年、国(農林水産大臣)に対して計画決定処分の取消訴訟を大津地裁に起こしました。理由は、自然環境と生活環境を守ること、過重となる農業者の建設負担金やムダな公共事業を止めさせることにありました。

 訴訟では、ダム計画の根拠法である土地改良法による改良事業の基本的要件である、事業の必要性及び経済性(事業の効果が事業費用を上回ること)が主たる争点になりました。住民らは、前者については、水不足はないこと、受益地となる農地は減反政策等で減少していることを主張しました。後者については、国は事業の効果を著しく過大に評価していることを訴えました。環境被害を「費用」として算定しないことも問題になります。しかし、1審判決は国の裁量範囲を広範に認めて請求を棄却しました(02年10月28日)。

これらの要件が争われていた控訴審段階で、情報公開により工事実施調査資料が明らかになり、重大な新事実が判明しました。すなわち、貯水量計算の誤り、ダム地盤の岩質が柔らかく堤体を長くしなければならないこと、河床部は透水性が大きくより深く掘削する必要があることなどです。そのため、ダムを建設するには費用は当初の479億円から800億円以上になることが判明しました。すると経済性の要件は満たさないことになります。そこで国は、計画変更手続に移行しようとしました。経済性の要件は計画変更の場合には外されているからです。これは、事業費のかさ上げのために国の公共事業ではよく採られる「小さく生んで大きく育てる」方式です。これでは経済性の要件が争えなくなります。そこで、そもそもずさんな調査によって計画決定した手続自体の違法性が争われました。計画決定の瑕疵が計画変更手続によって是正されるかという側面もあります。    

 大阪高裁はまず手続的要件について次のように判示しました。「ダム地点については航空測量で縮尺500分の1の地形図が作成されただけで、実地測量はされず、それによる図面も作成されなかった。また貯水池については実地測量はおろか航空測量もされなかった。ダム地点の地下地質調査についてはボーリング調査等全くされないまま実施設計された。」また、専門家の意見も必要とされているところ、国の資料をうのみにし、専門家としての必要な調査をしなかったことも指摘されました。
 そして、本来必要な調査がなされていれば、費用が効果を上回ることはほぼ確実であるにもかかわらず、計画変更によって経済性が不問に付されると国民経済的な観点から必要とされる基本的な要件が無意味になり、ダムの規模を誤って設計した瑕疵は極めて重大であるとして計画決定を違法と評価して取消しました。
 この判決は上告されましたが、不受理により確定しました(07年10月11日)。

 国によるダム建設の計画決定手続がいかにずさんであるか、大学教授などの専門家の意見がいかに国の決定を追認する形だけのものになっているか、計画変更手続という極めて不合理なシステムがこれまでいかにまかり通ってきたかを明らかにしたこの判決の意義は極めて大きいと評価されています。ダムに限らず多くの公共事業の広範な部分が費用対効果が合わない赤字になっています。行政の裁量を広く認めがちな日本の司法の中にあってこの判決の意義は小さくありません。