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広島

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原爆症認定訴訟
T・O記

1945年8月6日、広島に原爆が投下されました。この原爆投下により、広島では14万人以上が死亡し、生き残った人たちは現在もなお後遺症に悩まされ続けています。こうした後遺症について、政府が原爆症(被爆が原因で発症した)と認定すれば、月に約13万円の医療扶助特別手当が受けられます。

しかし、この原爆症の認定基準は極めて厳しく、被爆者健康手帳を持つ人が26万人余りいるのに対し、原爆症と認定されているのは2200人ほどです。認定数が少ないのは、DS86と呼ばれる認定基準にあります。これは、疾病が原爆を原因とする確率をあらわすもので、爆心地から2キロメートル以内で被爆していない場合、自動的に認められないものとなっているため、2キロメートル以遠で被爆した人や、救護のために広島市へ入り被爆した人(入市被曝者)は、原爆症と認められないことになります。

この厳しい認定基準は、予算が2000人分ほどしか確保されていないからとも言われています。そこで、原爆症の認定を求めたところ、その申請を却下された人たちが、その却下処分の取り消しを求めて訴訟を提起したのが、この原爆症認定訴訟です。広島では44名が原告となり、訴訟を進めていました。

2006年8月4日、広島地裁は、原告らの請求を認め、原告41名全員の申請却下処分の取り消しを認めました。つまり、原告らの疾病を原爆症と認定したのです。しかし、政府は、この判決を不服として、控訴しています。

原爆症訴訟は、これまでも個人によって何度か裁判で争われ、最高裁でも原告の訴えを認める判決が出されています。その中で、最高裁は、厚生労働省が定める原爆症の認定基準が厳格に過ぎ、その基準を「機械的に適用することは科学的ではない」と指摘しています。しかし、それにもかかわらず、厚生労働省はその認定基準を改めず、むしろさらに厳しい認定基準を定めました。それが現在裁判で争われているのです。

広島地裁での判決のほか、2006年5月12日には大阪地裁で原告9名全員を原爆症と認める判決が出されていますし、2007年1月31日には名古屋地裁で原告4名のうち2名を原爆症と認める判決が出されています。いずれの判決も、厚生労働省の定める原爆症の認定基準を批判しています。

原爆症認定の問題のほか、在外被爆者に対しては、来日しなければ被爆者健康手帳が交付されない問題や、被爆二世には援護が極めて限定されていることなど、被爆者に対する行政には様々な問題が残されています。唯一の被爆国である日本が、被爆者に対してこのような冷たい行政を続けていていいものでしょうか。「北朝鮮」の核問題が注目される中、日本は、原爆被害を見つめなおすことを通じて、核兵器の恐ろしさを伝える役割が求められているように思います。

参考:当サイト「今週の一言」

<投稿> 人間を苦しめ殺し続ける原爆

渡辺力人(原爆訴訟を支援する広島県民会議事務局長)

 原爆投下後61年たった今も原爆は人間を苦しめ殺し続けている。昨日も県被団協の活動家が急性白血病で原爆に殺された(1・8キロ被爆、入院して1ヶ月余で、享年75歳)。広島市内では、被爆者健康手帳所持者が毎年二千数百人死亡している。原爆投下を正当化するアメリカは、今も核兵器が及ぼす人類への将来にわたる深刻な被害を隠し続けている。

 原爆症の認定を求める集団訴訟での、大阪、広島、名古屋地裁の判決は、被爆者の実態を重視し、はじめて原爆放射線の内部被曝、低線量被曝について言及した。核兵器にしがみつく「加害者の科学」、それに従う日本の「植民地科学」にやっと一矢を放った画期的な判決だと思う。

 政府は司法の判断に従わず控訴した。しかしこれらの判決の意義は消し去ることはできない。広島の控訴審で、政府の代理人は41人の被爆者原告全員にたいし「原告らは、ほとんど被曝していない」あるいは、「原爆放射線以外に発症の原因がある疾病を発症している」「一審判決は余りにも非常識」と述べて傍聴者をあきれさせた。彼らは一度でも被爆者の実態を聞いたこと、一度でも原爆資料館を尋ねたことがあるのだろうか。彼らは原爆被害についての膨大な調査資料や著書、被爆者の証言に目をとおしたことがあるのだろうか。

 国の代理人は、つづけて「広島では爆心地から1.1km以遠では・・・放射線被曝による下痢はもちろん脱毛も生ずることはない」「遠距離・入市被爆者にみられた下痢や脱毛等の症状は、放射線以外の原因に基づくもの」と述べている。下痢や脱毛は、伝染病やストレス、栄養失調というのである。この陳述がいかに被曝実態を無視した詭弁かは広島市民の大方は知っている。怒りを覚えざるをえない。原爆碑に名を記された20数万人の原爆死没者がこれを聞いたらどう思われるだろうか。

 すでに広島の原告も10名が死亡された。原告に残されている時間は少ない。今全国で司法判断を拒否し続ける厚生労働省に対する批判は強まっている。東京都議会、札幌市議会などは全員一致で、政府が司法判断に従うよう意見書を提出し、国会内でも超党派で認定制度を改善して早期解決を求める動きが強まっている。この裁判で原爆被害の深刻さを明らかにし、核時代だからこそ憲法九条は世界の宝であることを訴える被爆地広島のとりくみをいっそう強めたい。