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山口(2)

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国策の横暴〜岩国報道とマスコミ
西山正啓(ドキュメンタリー映画作家)

2007年2月8日神奈川県横須賀市議会が「原子力空母配備の是非を問う住民投票条例案」を31対10で否決した。その横須賀を母港とする原子力空母の艦載機部隊(所属は厚木基地)59機を受入れるかどうかについて06年3月に住民投票を実施したのが山口県岩国市。戦後60年、国の政策を従順に受入れ米軍基地と共存してきた筈の人々が “もうこれ以上、基地の拡大強化はイヤだ!”と、堰を切ったように住民投票で明確な意志表示(投票率58%、全投票者の87%が受入れ反対)をしたのである。

それから2年、横須賀市では再び「原子力空母母港化の是非を問う住民投票条例」の直接請求運動が始まり、岩国では2月10日に出直し市長選挙が行われ受入れ容認派の候補が当選したことで事態は一変した。新市長は就任してから僅か15日で受入れを容認、それを受けて防衛省も3月12日には<約束済みだった>にもかかわらず一方的にカットし、兵糧攻め状態にしていた新市庁舎建設補助金35億円と米軍再編交付金の支給決定を市長に伝えた。

私は住民投票からこの2年間、「米軍再編・岩国の選択」という定点観測で岩国を映画で記録しつづけてきた。地域住民の意思を一切無視して推し進められる在日米軍再編。言うことを聞かなければ平気で公約(岩国新市庁舎建設補助金)を破り、法律(米軍再編推進特別措置法)を作ってまでしてあからさまにイジメる。封建時代と何ら変わらない、この国の横暴なやり方をマスコミはちゃんと伝えているか。


映画「貧者の一灯」1シーンより

06年3月に行われた岩国住民投票には東京、大阪からテレビ、新聞、月刊誌、週刊誌などマスコミ取材陣が大挙して岩国入りした。しかし投票後は汐が引くように彼らの関心も遠のいていった。マスコミ各社の岩国支局記者は毎日のように取材を重ね記事を書いているが、その扱いが地域版限定だから岩国でまかり通る“国策の横暴”が全国に伝わらない。これはローカル枠でしか放送されないテレビでも同じことだ。NHK山口が意欲的に45分番組を制作してもローカル枠だから県外には流れない。岩国は山口と広島の県境にあるので、新聞紙面の扱いによってはすぐ隣の広島にも伝わらない。逆も然り。沖縄辺野古、神奈川県座間、厚木、横須賀の動向も岩国の人たちにはほとんど知らされない。在日米軍再編にかかわる全国各地の重要な動きがマスコミを通して当該地域の人々に伝えられないのである。横須賀の原子力空母配備に関る住民投票条例の直接請求運動が首都圏で関心が低いのもマスコミによって報道されないからではないか。原子力空母の母港化は過密な東京湾の入口に不安定な原子力発電所が建設されることと同じである。もし東京湾に原子力発電所が建設されると知ったら首都圏住民はどう反応するだろうか。都心から直線距離にして僅か40キロの場所で<安心・安全>にかかわる重大な事柄が進行しているのだ。マスコミの報道すべき優先順位はどこにあるのだろうか。

昨年8月、井原勝介岩国市長(当時)が東京三鷹駅前と銀座数寄屋橋で、国による理不尽な新庁舎建設補助金カットの不当性を訴える街頭募金活動を行った。地方の首長が政府の足元に“上京”して直訴するなんて事は、これはもう“事件”である。しかしマスコミの反応は鈍かった。翌日、写真入の記事を見てさらに驚いた。扱いが「東京武蔵野版」だったからだ。

私は映画「米軍再編・岩国の選択」シリーズ一作目のチラシに「国策の横暴・引き裂かれる民意/主権者はだれ・主権在民はどこへ」と書いた。岩国問題は国策(米軍再編)に対峙する地方自治という憲法の根幹に関る重要課題と考えたからからである。

二作目「消えた鎮守の森〜見えてきた沖合移設のからくり」(95分)では07年の年明けに突如発表された米軍住宅建設計画に反発する愛宕山開発地域周辺自治会の声を丹念に記録した。最新作「貧者の一灯〜子や孫たちに語りつぐ闘い」(110分)は国策の横暴によって引き裂かれてゆく民意の中で、少子高齢化、過疎、後継者不足という日本の地方が抱えたもう一つの厳しい現実を描いた。平和な岩国を願い、地域にへばりついて米をつくり、美しい蓮根(ハス)の花を育て、「ここはアメリカの土地でも、国の土地でもない。ここで暮らす我々の土地である」と語る人々の不屈の心。その魂の在処を記録した。4月、井原後援会が草の根ネットワーク岩国に衣替えした。井原勝介前市長も自身の経験を伝える市民政治塾を立ち上げた。民主主義と地方自治を確かなものにするため、次の挑戦が始まった。


西山正啓(にしやままさひろ)さんのプロフィール

 ドキュメンタリー映画作家/福岡教育大学「共生社会論」講師
 代表作「ゆんたんざ沖縄」「しがらきから吹いてくる風」「水からの速達」「大量廃棄社会に未来はあるか」「梅香里メヒャンニ」「ベトナムに生まれて〜枯葉剤を浴びた村から」「朋の時間〜母たちの季節」「ぬちどぅ魂の声」「米軍再編・岩国の選択」シリーズ3部作。
 現在「映画上映&井原勝介トーク」を全国で展開中。
 上映についての問合せは092−942−7406(ファックス兼)
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