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長崎(2)

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佐世保自衛隊員いじめ自殺事件
Y.M.記

 防衛省の調べによれば、自衛隊内部の自殺者は、ここ数年で毎年100人に達しているとされます。しかし、その原因については、自衛隊内部でしっかりと明らかにされているわけではないようです。その中には、自殺した自衛隊員が、隊内での「いじめ」が自殺の原因とする遺書を書き残している事例もしばしばみられます。けれども、これに対して、自衛隊側が「いじめ」の存在を認めることはありません。
 そんな中で、海上自衛隊佐世保基地所属の護衛艦「さわぎり」の乗組員で自殺した自衛隊員の遺族が国に対して損害賠償と謝罪を求めていた裁判は、不透明な自衛隊内部の「いじめ」の実態に対して司法がいわばメスを入れたというべき初の画期的な事例です。

 1999年11月8日、「さわぎり」所属の3等海曹・Hさんが、四国沖を訓練航海中に艦内で首つり自殺を遂げました。奇しくもこの日は、Hさんの21歳の誕生日でした。
 後に裁判所も認めたように、Hさんに対しては自殺する約2ヶ月前から直属の上官による執拗な「いじめ」ともいえるような実態があったことが明らかになっていますが、しかし2000年5月、海上自衛隊佐世保地方総監部は、「自殺の原因は特定できないが、いじめはなかった」とする調査報告書を発表します。
 そこで、2001年6月7日、この内容を不服としたHさんの両親は、国に対して2000万円の損害賠償と謝罪を求める国家賠償請求訴訟を長崎地裁佐世保支部に起こしたのでした。自衛隊員の自殺をめぐって国家賠償請求訴訟が提起されたのは、実にこれが初めてのケースでした。

 2005年6月27日、第1審長崎地裁佐世保支部は、Hさんの両親の訴えを全面的に退ける判断を下しました。すなわち、Hさんに対する上官の言動は不適切なものであったけれども、しかしそれは指導・教育として社会的に相当の範囲を逸脱していないというのです。
 これに対して、hさんの両親は控訴します。そして先週の8月25日、第2審福岡高裁は、第1審の判断を変更して、国側に計350万円の支払いを命じる原告逆転勝訴の判決を言い渡したのです。裁判所によれば、Hさんは「うつ病が原因で自殺したと認められ、その原因は上司の侮辱的言動によるストレス」である。そして、それはHさんを「ひぼうし、心理的負担を蓄積させるような内容」で「指導の域を越える違法なもの」であった。また、直属の上官は、国に代わって自衛隊員に対する安全配慮義務を負わなければならないにもかかわらず、Hさんに対し「逆に侮辱的な言動を繰り返したもので、この義務に違反した」。従って、直属の上官による言動とHさんの自殺の間には因果関係が認められる。
 大要、以上のように裁判所は述べ、自衛隊員の心理的負担に対して国の安全配慮義務を司法部として初めて認めるという画期的な判断を行ったのでした。

 「さわぎり」におけるHさんの自殺の後も、自衛隊員の自殺はむしろ増加しています。そして、Hさんと同様の事案が、現在横浜地裁と静岡地裁浜松支部に係争中です。これらの事実は、不透明な自衛隊内部において明るみになった「いじめ」の実態が、実は氷山の一角に過ぎないということを示している証左のようにも思われます。自衛隊そのものの憲法適合性の問題とは別個に、そこに所属する自衛隊員の人権保障のあり方が改めて問われなければなりません。そのためには、裁判所は認めませんでしたが、原告が主張していたような「軍事オンブズマン制度」の導入などを始めとする、自衛隊に対するあらゆる民主的統制メカニズムを模索していくことが必要となってくるでしょう。