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1952年

 
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『鉄腕アトム』連載開始
H.T.記

 1952年、手塚治虫(1928〜1989)の代表作であるマンガ『鉄腕アトム』の連載が、雑誌「少年」で始まりました。連載は17年間に渡りました。アトムは、原子力をエネルギー源にした感情を持ったロボットで、21世紀の未来を舞台に活躍します。それまでの日本の4コママンガに代わってストーリー性と哲学があり、さらに戦後の日本の未来を背負う科学を豊富に採り入れたマンガの登場は、手塚が重視した冒険心も魅力となって、子供だけでなく大人も惹きつけました。手塚は、63年にはこれを国産初のテレビアニメ化し、日本のアニメ文化を世界に発信するパイオニアとなりました。

 手塚は、「訴えたいことがないといい漫画は書けません」と言います。そして「『生命の尊厳』が永遠のテーマです。これは私の信念なのです。」と続けます。原動力になったのは、子供の頃からずっといじめられっ子だったことや、軍隊におけるいじめ体験だったとのことです。軍人から「この場で殺す」と刀を構えられる恐怖の体験もしました。戦後の日本は、戦争から解放され平和を希求する優れた芸術家を多数輩出しました。手塚もその一人でした。

 手塚のマンガを26冊読んだという作家の開高健は、手塚の理念についてこう書いています。「人種偏見のない世界、国境のない世界、資本の策略のない世界、人を殺す機械のない世界、人を殺す理論のない世界、階級のない世界、小国の積極的中立主義の生きる世界、誇りの硬直のない世界、愚者と弱者が賢者や権力者や強者と同格で肩を並べられる世界、寛容と同情の世界。それが彼の主張する世界像なのである」(1964年)

 医学博士でもあり、科学技術に強い関心を持っていた手塚は、『鉄腕アトム』について以下のように記しています。
 「『鉄腕アトム』が私の代表作といわれていて、それによって私が未来は技術革新によって幸福を生むというようなビジョンンをもっているようにいわれ、たいへん迷惑しています。アトムって、よく読んでくだされば、ロボット技術をはじめとする科学技術がいかに人間性をマイナスに導くか、いかに暴走する技術が社会に矛盾を引き起こすかがテーマになっていることがわかっていただけると思うのですが、残念ながら、十万馬力で正義の味方というサービスだけが表面に出てしまって、メッセージが伝わりません」

 08年5月、賛成多数で成立した「宇宙基本法」は、69年の国会決議にあった宇宙利用の「非軍事」の文言を削除し、「我が国の安全保障に資する」と付け加えることによって、宇宙を軍事目的にも使用する方向へ大きく転換しました。これを具体化する作業として、先日の12月2日には「宇宙基本計画」の骨子が政府によって了承されました(専門調査会座長・寺島実郎氏)。

 アトムは、2026年の大晦日、過熱した太陽の核爆発を抑制するために、某物質を携えて太陽に向かい、カプセルとともに太陽に突入し、壮烈な死をとげました。今、手塚もアトムもこの世にいません。生きていたら、「宇宙基本法」と闘う壮大なスぺクタルを展開していたかもしれません。否、手塚は今、復活して闘っているでしょう。梅原猛氏によると、手塚の中心問題は、もう一つの代表作「火の鳥」に表れているように、人間の「永遠の生」であり、「不死」なのですから。

 今、マンガやアニメに熱中する「消費文化」が盛んです。これは各人が別々の世界にはまる文化で、かつての文化にあった「共同」の要素が薄れてきています(中西新太郎著「若者たちに何が起こっているのか」)。マンガやアニメ文化の火付け役だった手塚はどうみているのでしょうか。

 (手塚及び開高の発言は、「ぜんぶ手塚治虫!」《手塚治虫著 朝日新聞社 07年10月発行》から引用しました。)