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法学館憲法研究所

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1979年

 
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『ジャパン・アズ・ナンバーワン』
H.T.記

 1979年、ハーバード大学の社会学の教授であり、同大学の東アジア研究所長でもあったエズラ.F.ヴォーゲルが著した『ジャパン・アズ・ナンバーワン(Japan as bP)』がベストセラーになりました。長年日本に滞在して日本の社会、経済、政治を観察、研究した氏は、「効率性という点では、日本は間違いなく世界第一位である」として「日本の驚異的な発展」を「アメリカの鏡にせよ」と訴えています。「鉄鋼業はアメリカを追い抜いた。オイルショックにもかかわらず造船総トン数は世界の半分以上だ。日本の成功の原因を安い労働力に帰することは、もはや時代遅れだ。むしろ、近代的な設備と生産性を理由としてあげるほうが適切である」。70年代の終わりのこの頃は、日本はすさまじい勢いでアメリカを追い上げ、やがて追い越すのではないかという危機感さえ持たれていました。
 
 氏は、日本の企業が業績を上げている原因として、終身雇用、年功序列賃金、企業と協調的な労働組合作り、企業内福利厚生の充実、目先の利益でなく長期的な利益を上げることの重視、比較的小さい賃金格差等を詳細に説明しています。企業と一体化して「その働きぶりと自尊心」のある「会社人間」からなる日本の企業は、効果的な近代組織であると評価します。高い教育水準、治安の良さなども紹介しています。

 後進資本主義国家として出発した日本は、官民一体となって欧米に追いつくことを目標に突き進んできました。その過程で、内外の多数の論者は、@終身雇用、年功序列賃金、企業別組合という日本型雇用慣行や、それを基礎にした企業への強い意識は日本の大企業が資本主義の論理から逸脱し、遅れている現われだと見てきました。また、A企業の株主の発言権は弱く、B会社の経営者の多くは株主の代理人というよりは従業員の代表という性格を持っており、これも本来の株式会社のあるべき姿を歪めているものと見られてきました。

 日本の経済成長は、この見方を逆転させました。ヴォーゲルのような評価が高まり、80年代まで続きます。日本の経営者は自信を持ち、労働者の間にも、資本家と対立する労働力商品の主体というよりは、企業と利害を共有する共同体の一員であるという意識が広がりました。

 しかし、ここで再逆転が起きます。労働力と比べて資本ははるかに容易に国境を越えて、アメリカを中心としたグローバリゼーションが世界を覆い、脱工業化時代における多国籍企業は政府の新自由主義政策を取り付け、「資本の論理」の貫徹を図りました。モノ作りよりも、おカネの投機で利潤を上げるアメリカ主導の金融資本主義が謳歌しました。上記の3つの特徴に関しては、@日本型雇用慣行は概して企業の足かせとして攻撃されました。正規労働者の非正規化はその典型です。A株主は目先の経済的利益を求めて株価の高騰や高配当を求めました。B経営者は従業員よりも株主の方を向きました。

 ところが、近年の投機資本主義による世界的な経済危機は、資本主義の再構築を迫っています。

 「ジャパン・アズ・ナンバーワン」の背景となったのは、日本独特の「法人資本主義」であるという見方が大変有力です。戦後日本においては、個人が大量の株式を保有して会社を支配するという形態よりも、企業間の株式持ち合いや所有に基礎を置かない経営者が会社を支配するという法人資本主義の形態が取られてきました(奥村宏)。岩井克人氏は、「良心も持たず、気まぐれ心も持たない法人という抽象的な存在が企業の所有者になっている方が、はるかに効率的で成長志向的だ。資本主義のもっとも純粋な形態でさえある」と述べています。(「資本主義を語る」)。成長を長いスパンで実現するかどうかにも関る問題でしょう。法人資本主義については、内部留保を極大化させ、複数の産業部門に渡って国境を超えて支配分野を拡大する法人資本主義は、「個人を『法人』と呼ばれる自己永続的な組織に従属させるものになる」という警告があります(都留重人「日本の資本主義」)。
 
 また、「終身雇用・年功序列・会社別組合を特徴とする日本的経営は、後期産業資本主義の至上命令だった機械制工場の効率的な運用に必要な組織特殊的人的資産をうまく蓄積するにためには最適な仕組みだった。これからポスト産業資本主義に変わっていくなかで、日本的経営は自らを変革することが困難になっている」との指摘もなされています(岩井克人「資本主義から市民主義へ」)。すでに、情報などのソフト面を中心とした資本主義の時代になっているからです。個人を企業と政府・地方自治体(公共)のそれぞれがどの側面で支えるか、役割分担にも関係する、大きな課題です。
 
 経済社会の中心となるべきは、やはり人間です(憲法13条)。「日本の近代化は、軍事力、経済力と進み、そして最後の壁はルールとか法です。そこに挑戦するということは、非西洋国家・日本の国家的な課題、あるいは文明的な課題だと思います。人間中心の日本型モデルの理論構成は日本だけがやれると思うのです」(上村達男・金児昭「株式会社はどこへ行くのか」 上村発言)。