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1987年

 
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国鉄の分割・民営化―司法の「この国のかたち」への関り方
H.T.記

 財界による政治の支配ともいえる「第二臨調」の答申を受けて、1987年4月、公共企業体(公社)だった日本国有鉄道(国鉄)は、分割・民営化されました。すなわち、国鉄は6つの民営旅客会社(JR各社)などに分割され、国鉄は新事業体を分離した後、清算事業団となることになりました。民営化の理由とされた表向きの最大の理由は、30兆円を越える巨額の累積赤字の処理でした。巨大化した組織を分割・民営化して市場原理で効率的に経営し、赤字を解消するという臨調・政府の意見はマス・メディアを通して多くの国民の支持を得ました。国鉄労働組合(国労)等組合のストライキや勤務態度についてマス・メディアを通じて批判が展開されました。一方、借入金による公共事業で採算の見込みのない路線となることを十分に承知しながら建設して赤字を膨張させ続けた政・財・官に対する追及は極めて甘いものでした。

 民営化したものの、国鉄清算事業団による返済は進みませんでした。バブルによる地価の高騰で保有する用地の実勢価格は30兆円を下らず、民営化の必要はないとも言われました。しかし、清算事業団は7兆円余で売る見積もりを立て大企業に時価より安価で売却するなど、その仕事振りは極めて不自然でした。債務のうち、16兆円の有利子債務は一般会計に承継され国の借金となりました。私たちが私腹を肥やした者の責任を持つことを意味します。国鉄の解体から20年以上経った現在でも、例えば2008年12月、政府・与党のワーキンググループは、北海道、九州などの新幹線について本年12月までに新たに着工を認可することで合意しました。「民営化」は公に寄生していた政・財・官の特権層による公的資産の私物化とも言えます。公社の職員の勤務態度に問題があれば―政財と癒着して公益よりも私益に走る幹部職員を含めて―国民の監視の下で職員自身が強い責任感を持って積極的に改善するべき事柄です。「民主化」を標榜する組合の自己革新も必要です。しかし、分割・民営化するかどうは、公共交通機関としての使命など他の広範な問題点を含めて議論すべき別問題です。

 こう見ると、国鉄の解体は、赤字の解消を本気で考えてはいなかったことがわかります。では、本音はどこにあったのでしょうか。指揮を執った中曽根元首相は、後にあちこちで、「総評の中核部隊である国労を潰す」→「総評を潰す」→「総評に依存している社会党を崩壊させる」→「改憲する」とともに、「利潤原理」を労働者・国民に浸透させ、「この国のかたち」 を根本的に変えていこうというのが本来の目的であり、この戦略は成功したと、「成果」を誇っています。89年1月、総評は解散し、日本労働組合総連合(連合)が発足し、以後大企業と基本的に一体となった特殊日本的「企業別組合」による労働者の統合が進展しました。社会党も保守化し、衰退への道をたどります。この結果、新自由主義が益々ばっこし、憲法が掲げる「福祉国家」から離れて行きます。国鉄に限らず、一連の民営化に財界が強力に関与していたこと、民営化の目的を隠蔽したという2点だけでも、「国民による政治」という民主主義の原則からも大きく逸脱しています。

 国鉄再建のキャンペーンに反対する国労など国鉄の各組合に対するJR不採用の脅しによる組合脱退工作は苛烈を極め、追い込まれて自殺した国鉄職員は約200人に及びました。JR各社に採用されたのは20万余名で、脱退に応じなかった7628名の国鉄職員が、国鉄を承継した国鉄清算事業団に送られました。その内、1047名が3年後の1990年4月に解雇されました。80年代前半までは25万人だった国労組合員の数は激減しました。

 今日に至るも、解雇された国労などの組合員は、解雇は組合潰しの不当労働行為に当り無効であるとして(労働組合法7条)、地位確認や未払賃金の支払いを求めて裁判所で争っています。国鉄とJRは実質的に同一で、JRも責任を負うというのが主張の根底にありました。これに対して最高裁判所は、国鉄とJRは別人格であり、JRの責任はないと判示しました(2003年12月22日第1小法廷)。

 しかし、破綻を偽装して新会社を設立し、気に入った者だけを新会社に採用することが社会でまかりとおったら、法治国家とはいえなくなり、私たちの生活は成り立ちません。実質的には違法・違憲(憲法28条)だというのが普通の感覚でしょう。国鉄分割民営化が政府の手で行われて以来、これをまねして大中小企業を問わず偽装倒産による解雇が横行していると言われます。
 なのになぜ裁判所は「普通の感覚」を認めなかったのか?実は、国鉄分割・民営化に当って、最高裁からエース級の裁判官が国鉄法務課調査役に出向し、偽装倒産→解雇の戦略作りに深く関与しました(1998年6月12日東京新聞)。その後もエリート裁判官がJRに出向して法務部門を担当しています。「国」は、最初から司法の専門家を取り込み、司法が「裁判所一家」であることを十分に踏まえて裁判の結果までにらんでいたと言えるでしょう。「この国のかたち」を決める根幹の局面で、司法が制度設計・法案作成・執行・裁判という全プロセスに絡んでいたことになります。裁判所が行政部門などに人材を出向させ法案の作成や執行に関与していることは日常的に行われています。今回の問題に限らず、三権分立を脅かす重大な問題として、国民的な議論の必要性が指摘されています。

※法学館憲法研究所事務局からのお知らせ
 元裁判官による連続講演会を、下記のとおり開催中です。国民に伏せられている裁判所の実情を知っていただくためにも、ご参加をお待ちしております。

 大阪校での講演(8月28日)
 名古屋校での講演(9月8日)
 東京校での講演(9月9日)