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1992年

 
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PKO協力法等の成立―自衛隊海外派兵の突破口開く
H.T.記

 1992年は、徹底した平和主義を規定する9条の歴史にとって第2の大きな転換点となりました。第1の転換点は、警察予備隊から始まって自衛隊という事実上の「軍隊」を持つに至った1950年代前半でした。しかし、旧軍や軍事体制の復活に対する世論は、自衛隊の目的を専守防衛に限定し、海外派兵には禁止の縛りをかけていました(1954年の参議院本会議決議等)。仮に自衛隊を認めるとしても、憲法は言葉の真の意味での自衛戦争のみを認めているという軍事小国主義です。第2の転換は、自衛隊の海外派兵への道を開いたことでした。すなわち、92年、PKO法(正式名称は「国際連合平和維持活動等に対する協力に関する法律」)等が強行採決で成立しました。

 90年、湾岸危機が発生すると、日本も「人を出して血を流せ」というアメリカ等から強い圧力が加わりましたが、国内では海外派兵に強い反発があり、結局資金の拠出に止まり、政財界にとっては強いトラウマになっていました。
 当時、世界有数の経済大国となった日本は、国連の常任理事国入りを図るなど政治の面でも大国となる道を目指していました。経済と政治の大国化を支え保証するのは、軍隊を海外に派兵し、「国益」を守るために軍事大国になるという(戦争の違法化を歴史の進歩と見る立場からは)「いつか来た道」でした。海外派兵に対する国民の強い反対を抑え、発想を転換させるために使われた概念が「国際貢献」であり、国連の「平和維持活動」でした。

 「国連による紛争解決」の歴史は、大きく3つの時期に分かれます。@冷戦の時代は、常任理事国が拒否権を発動するなどして安保理はほとんど機能しませんでした。そこで採られたのが、1950年、国連総会の決議で国連が紛争解決に乗り出してよいというルールです(最上敏樹「いま平和とは」)。これは停戦・休戦した後国連が指揮する軍事要員で脆弱な「平和」状態を維持する活動でした。これが「平和維持活動」(Peace−Keeping Operations)です。国連憲章には規定がなく、利害関係国・大国でない国々から要員が派遣されて停戦監視などにあたる中立の活動として当事国の同意を得て行われました。

 Aところが、冷戦が終結すると、「西側」のリードにより安保理が機能するようになります。大国が国連の名で戦争や紛争に介入することが可能な時代になりました。湾岸危機はこの時に発生します。しかし、湾岸戦争は、かつての「平和維持活動」とは異なり、アメリカ主導の「多国籍軍」、実質は集団的自衛権の行使で結ばれた同盟軍による戦争でした。これを安保理が正当化し、国連憲章からは遠ざかりました。湾岸戦争の終結後に派遣された「国連イラク・クウェート監視団」は、PKOと言われましたが、かつてのように「同意」はなく「中立」でもありませんでした。そのため、「第2世代のPKO」と呼ぶことがあります(浦部法穂他著「現代憲法講義1」森英樹執筆部分)。

 B第3の時期は、01年の9・11事件以後、アメリカなどの大国が再び国連を無視して、国益を追求するための戦争を遂行するに至った時代です。

 日本のPKO法はAの時代の「国連中心主義」の思想をバックに、@の時代に評価の高かったモデルを基に作られました。その3条では、平和協力業務として、停戦監視、選挙監視、被災民の救出、平和維持軍(本体と後方支援)等を規定しています。平和維持軍(Peace-Keeping Forces)(略称PKF)のことを政府は「平和維持隊」と称し、@停戦合意、A紛争当事者の合意、B中立性、Cこれらの前提が崩れた場合の部隊の撤収、D「武器使用」は自衛隊の要員の生命・身体の防衛のために必要最小限のものに限り、9条の「武力の行使」は認めない、という5原則を定めています。CDは、9条違反の批判を避けるためですが、現地の実情に合わず、「武器使用」と「武力の行使」の区別は不可能であり、憲法に違反するとの批判があります。但し、PKF本体業務は01年に至るまで凍結され、また、武器使用要件はこの間徐々に緩和されて行きました。PKO法による海外出動は、92年のカンボジアを皮切りに世界各地に向けて行われました。

 一方92年には、テレビ東京系で「サンダーバード」というイギリスのテレビ人形劇が始まりました。66年にNHKで初放映されて以来世界98か国で放映されブームを巻き起こした番組です。サンダーバードとは、人命救助のため、最新のメカを駆使して世界各地に派遣される民間の国際救助隊です。9条によって世界に無軍備平和・安全保障の道を提示した日本は、率先して軍縮し、サンダーバードのように非軍事の「ニッポン国際救助隊」を設立するなど(水島朝穂「きみはサンダーバードを知っているか」)、積極的平和主義の理想の下、平和的な方法で世界の構造的暴力をなくする様々な提案がなされています(参照「中高生のための憲法教室」<日本の国際貢献>)。