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1994年

 
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衆院、小選挙区・比例代表並立制導入
H.T.記

 1980年代末から90年代にかけて「政治改革」の論議が沸騰しました。原動力は、88年のリクルート事件を発端する数々の政治腐敗の根絶を求める国民の声でした。その結果、94年1月、非自民の細川連立政権のもとで、衆議院の選挙区制度を小選挙区・比例代表並立制に「改革」する法案が成立しました。民主主義の実現のため比例代表制に向かっている世界の流れに逆行した「改革」でした(渡辺洋三「法とは何か」)。

 民主制を採る国民代表機関としての国会(43条1項)には、@民意の反映とA民意の集約が求められます。問題は、@Aのどちらにウエイトを置くか、どうバランスを取るかです。
 従来は、@を重視して、1つの選挙区から3〜4人の議員を選ぶ中選挙区制を採用し、国民の少数派も一定の議席を確保していました。これに対して、より@を徹底する見地から、比例代表制への改正を求める声も根強くありました。対極にあるのがAを重視する小選挙区制です。比較多数の政党が得票率よりもはるかに多い議席を獲得でき、少数政党への投票は死票が多くなります。300人の定数を振る小選挙区制に180人の定数を付加する比例代表制を並立させる現在の制度は、前者の議席の方が多数なこと、比例区も全国を11に区分けしていることから、Aに相当の比重を置いています。今年8月の選挙の小選挙区での得票率は民主党と自民党の差は8.8%でした。しかし議席数の差は3対1を越えました。4年前の「郵政選挙」ではこれと逆の現象が起きました。

 選挙制度はどの党が有利・不利になるかでなく、支持政党の違いを超える民主主義がきちんと作動する制度にしなければならない、という「公共的」な観点こそ重要です。

 この点、小選挙区・比例代表並立制へと「改革」しなければならない理由として正面から掲げられたのは、中選挙区制では同一政党・会派同士の争いとなりカネがかかり過ぎることが政治腐敗を招いたのでこれを是正する、というものでした。この制度への改革はこれまで2度試みられましたがいずれも失敗していました。大新聞がこぞって反対したことが大きな原因でした。その教訓を踏まえて、今回は全国紙やテレビ会社の社長、論説委員長らを多数参加させた選挙制度審議会にこの案を提案させました。その結果、マスメディアの報道はとにかく制度を変えることが大事だという雰囲気や論議で、「改革、改革」の大合唱の下、反対意見を述べる人はバッシングに合いました(石川真澄「戦後政治史」、内橋克人「悪夢のサイクル」)。しかし、政治とカネの問題は、選挙区制とは関係ないことはその後の政治家の行動からも実証されています。上記の理由は、国民の怒りをかわすためのものに過ぎず、政財官の癒着構造の維持が図られました。

 「改革」の理由として、政策本位の選挙にして政権交代可能な二大政党制を実現しグローバル化した時代に適合的で強力な政治を行うということも挙げられました。当時の政党地図を見ると、保守二大政党制が志向されたと言えるでしょう。Aの民意の集約の重視です。

 現行の制度に対しては、自民党の有力者を含めて「幅広い有権者の支持を集めるため、中途半端な公約を掲げる傾向になり政策論争は進まない。日本は多様性を大事にする社会が必要だ」(加藤紘一氏)、「民主政治は万機公論だ。中選挙区の方が多元性のある議論が行われ、党内議論が活発になる」(中曽根康弘氏)など、多数の批判が見られます。民主政治という点では日本はまだ発展途上国です。民主主義先進国と言われる北西欧諸国でさえ民意の多様性を生かすために比例代表制色を強めようとしています。小選挙区制の本家と言われるイギリスでも比例代表制の導入を求める世論が急速に高まっています。

 さらに、目指そうとした「二大政党制」のあり方も問題になります。危惧は本年8月の選挙の公約にも現われました。「自・民とも国の姿を示していない。政党は“その先の日本”を描くより、目前の課題をどう処理できるかに追われている。」(09.8.1付け朝日朝刊)。「今後は、二大政党の思想も、保守主義か社民主義かという形で問われるだろう。それがないと、二大政党は限りなく似てゆく。個別の政策の微妙な差異を争うだけでは、郵政のようなポピュリズム選挙に陥りがちになる。マニフェストも、個別課題の羅列ではなく、英国のように、どんな国家をつくりたいのか、ビジョンを記したものになるべきだと思う。個人的には、10年くらいかけて選挙制度を中選挙区制に戻すべきだと考える。」(09.9.2付け毎日朝刊 中島岳志氏発言)。

 なお、現在の二大政党は、衆院比例区定数の削減ないし廃止で一致しました(05.12.28付け朝日朝刊)。民主党は今回のマニフェストで比例区定数80の削減を掲げました。理由は「国会もリストラ」です。憲法「改正」、消費税増税、自衛隊海外派兵恒久法の制定という中長期的な政治課題の実現との関係で注目されます。