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1999年

 
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国旗国歌法/男女共同参画社会基本法
H.T.記

T 国旗国歌法

 1999年は、国民の間で長年に渡って論争が繰り広げられてきた重要な案件が、一挙に法制化された年として記憶されています。
 この年が終わる頃、加藤周一氏は、「世界」(緊急増刊)「私たちの希望はどこにあるか〜戦後最大の転換点のなかで〜」の中で、さしたる論議もなく通過した一連の法律、(新ガイドラインを実行するための周辺事態安全確保法等3法、「国旗国歌法」「通信傍受法」「住民基本台帳法」など)が、将来、時限爆弾のように破裂して民主主義が徹底的に制限されるときが来るかもしれないと警告しました。格差社会を生んだ「労働者派遣法」も決定的な一歩を踏み出し、国会法の改正で衆参両院に憲法調査会を設置することも決まりました。これらの一挙の法制化の背景には、法案の欠陥が明らかになっても多数決で次々に処理する手法を可能にした自公連立政権による国会審議の変質があります(石川真澄「戦後政治史」)。

 国旗や国歌は、日本の象徴として機能します。だとしたら、憲法にふさわしい国旗や国歌は何か。主権者である私たちが世界に向かって胸を張れるような、1人ひとりの人間の尊厳や平和の理想を高らかに掲げるものであって欲しい、そんな声が戦後ほうはいとして湧き起こりました。「天皇の国」「軍国主義」のシンボルだった「日の丸」「君が代」に社会は違和感を抱きました。そのため、毎日、読売、朝日その他新聞各社は、新国歌を募集、主張しました。NHKも後援しました。このような世相のなかで、調査した範囲内でも10万通近い応募があり、「緑の山河」「われら愛す」のように、広く愛唱された歌も生まれました。

 一方、GHQは、東西冷戦の激化の影響を受けて、「日の丸」に「日本国民の一人一人をふるいたたせる輝く導きの光」として新しい意味づけを認めます。政府・与党も、50年の天野貞祐文部大臣の発言を端緒に、「日の丸」「君が代」の再定着を図るため、教育現場に照準を合わせ、学習指導要綱に書き込みました。明治国家ではこれらは学校を中心に儀式を通じて教え込まれ、国民統合に大きな効果を上げました。その経験が再認識され、子供たちへの刷り込みが次第に強化されて行きました。民の自立を抑制する政官による強制の構図です。

 89年、学習指導要領は、あいまいだという批判を受けて、「入学式や卒業式においては、その意義を踏まえ、国旗を掲揚するとともに、国歌を斉唱するように指導するものとする」と改定され、現在に至っています。しかし、これらは法的には慣習法としての弱みがありました。そこで、99年、大論争の中、「国旗及び国歌に関する法律」として法制化されました。法制化が可能になった一つの背景として、田中伸尚氏は、昭和天皇の存命中には決してできなかったことを挙げています(「日の丸・君が代の戦後史」)。
 法制化に伴う一連の政府見解をまとめると、「君が代」は「象徴天皇の国が末長く続くことを希う国歌」です。21世紀に生きる私たちを奮い立たせる「希望の歌」になるでしょうか。

 法律は、国民に義務を課していません。政府も国民には何らの強制をするものではないと答弁しています。しかし、教育の現場は違います。通達で職務命令により強制され、従わない教員の解雇など1123人の処分が出されています(朝日新聞09年8月18日付朝刊)。これに対して、教員や子供の思想良心の自由を侵害すること、強制は教育の本質に背くことなどを理由に、多数の違憲訴訟が争われています。弁護団長を務めた尾山宏氏は、“最も根本的な問題は、一般国民の人権感覚だ。残念ながら我が国社会には他人の思想・良心の自由を尊重する精神的風土や、お互いの差異に対する寛容が今なお余りにも乏しい”と述べておられます。

U 男女共同参画社会基本法

 この年に成立、施行されました。男女共同参画社会とは、「男女が、社会の対等な構成員として、自らの意思によって社会のあらゆる分野における活動に参画する機会が確保され、もって男女が均等に政治的、経済的、社会的及び文化的利益を享受することができ、かつ、共に責任を担うべき社会」です(第2条)。法の目的は、「男女の人権の尊重」と「豊かで活力のある社会の実現」です(1条)。男性優位社会の現状に鑑みると、前者は実質的には女性の差別的取扱いの是正です。後者の背景には「少子高齢化の進展」の時代(前文)において国際的な大競争に勝つという国家的な戦略があります。「男女共同参画社会の実現は21世紀の我が国社会を決定する最重要課題」と謳っています(前文)。

 このため政府は、05年には「20年までに重要な地位の3割を女性に」との目標を掲げました。しかし、政治や経済活動における重要な地位への女性の参画状況を示す08年の「ジェンダー・エンパワーメント指数」は108カ国中58位で、先進国の中では際立って低い状況にあります。今夏の選挙で女性国会議員の進出が話題になりましたが、世界的に見れば女性議員の比率は11.3%と、134位から120位前後に上がっただけです。国連の女性差別撤廃委員会から賃金格差の是正が再三求められていますが、女性は男性の6割台で、格差の大きさは先進国では最高レベルです。

 法の目的の実現がほど遠い背景には、「夫は外で働き、妻は家庭を守る」という男女の役割分担についての伝統的な意識があります。働く女性の6割が出産を機に仕事をやめる結果M字型になっている労働力率のグラフは他の先進国には見られません。育児休業の利用率は、女性の90%に対して男性は2%です(朝日新聞09年9月13日付朝刊)。

 03年の経産省の研究会の報告書「女性の活躍と企業業績」は、女性が活躍できる風土を持った企業ほど、業績が上がるとしています。報告書は、社会保険や賃金なども、女性に不利にならない中立的な制度に変えることが最重要だと指摘しています。