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2001年

 
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司法制度改革審議会意見書/テロ対策特措法
H.T.記

T 司法制度改革審議会意見書

 2001年6月、司法制度の広範な改革を求める司法制度改革審議会意見書が内閣に提出されました。司法制度の改革は、当時、大きく3方向から求められていました。@「司法は、多数決政治(国会、内閣)の独走をチェックし、基本的人権を保障するために存在する。しかし、政治部門の意向に忠実な最高裁裁判官が中心に任命されること、及びその最高裁による官僚司法によって、司法権の独立が侵害され人権保障・民主主義・平和という憲法の理念が実現されていない仕組みを抜本的に改める必要がある。」。長年に亘る市民の意見です。A「80年代からの世界的な新自由主義、経済のグローバル化の時代の競争に勝つためには、規制緩和と民間主導の市場経済を確立しなければならない。すると、事後のチェックや救済機関としての司法の役割を増大させる必要がある。」。経済界を中心とした意見です。B「80年代に、死刑が確定した被告が再審で次々に無罪になった。警察による自白の強要による調書の矛盾を裁判官は見抜けなかった。裁判官は検察や警察を信用し過ぎているのではないか。陪審か参審の制度を作り市民が裁判に参加してその常識を裁判に反映する必要がある。」。平野龍一教授など刑事法学者の意見です。日弁連も90年の総会で、陪審・参審制度の導入を提言しました。Bは@の一部ともいえるでしょう。

 審議会の意見書は司法制度改革を、それまで取り組んできた政治改革、行政改革、規制緩和等の経済構造改革等の一連の改革と有機的に関連する、「諸改革の最後のかなめ」と位置づけています。「これらの諸改革は、国民の統治客体意識から統治主体意識への転換を促そうとするもの」であり、司法の運営も同様に国民の主体的な参加が求められるとしています。「諸改革が統治主体への転換を促そうとするもの」であるとの理解には大きな違和感を持つ方が多いでしょう。

 「改革」案は3本の柱を示しました。
(1)まず、「国民の期待に応えるため、司法制度をより利用しやすくする」等の改革です。主として上記のAの要請によるものの他、@の視点も入っています。これに基づき、民事司法では、 専門的な事件についての専門委員制度、裁判所へのアクセスの拡充としての司法支援センター(法テラス)の設置、裁判外紛争解決手段(ADR)の拡充(労働審判等)等が実施され、概ね好評のようです。刑事司法制度では、被疑者への国選弁護、公判前整理手続等が導入されました。後者は、裁判の公開や審理の充実との関係が課題とされています。
(2)「司法制度を支える法曹の在り方」として、法曹の質的向上と人員の大幅な増大が盛り込まれ、法科大学院制度が発足しました。現在、質的に向上したのか、弁護士をどの程度増員すべきか等が論争されています。大学入学後最短でも7年〜8年経たないと法曹になれないというのは、経済力による「教育格差」一般の問題に加えて更なる格差を生み、国民からみても弱者への眼差しを欠く法曹が増えるのではないか、という問題もあります。
(3)「国民的基盤の確立(国民の司法参加)として、裁判員制度が採用されました。上記Bの意見を踏まえた制度です。国民が裁判に参加することについては、国家機関に取り込まれ裁判の正当化に利用されるとして制度そのものに反対する声や、公判前整理手続の上記問題や取調べの全面可視化等の問題が解決してから発足させるべきだとして当面停止すべきだという声も少なくありませんでした。制度が動き出して4か月になろうとする現在、運用状況を検証し改善点を提起する動きが出てきています。当研究所は、裁判員制度を含む司法制度改革について、「市民の司法」のサイトで議論しています。

 今回の「改革」では、冒頭の@で触れた問題は実質的には先送りされ、「改革」全体の性格の大きな限界と新たな問題点が提起されています。国民が主権者たる自らの人権保障を実現するために、個々の「改革」に対するものを含めて積極的に発言し行動すること、そして自らをどれだけ変革できるか、が今求められています。

U テロ対策特別措置法

 この年9月11日にアメリカで発生した「同時多発テロ」に対し、アメリカは「テロリズムとの闘い」を表明、自衛権の行使と称してアフガニスタン攻撃を開始しました。小泉内閣はこれを強く支持、11月にテロ対策特別措置法を成立させました。法律は周辺事態法の考え方を準用していますが、さらに自衛隊の活動地域が地理的に拡大しています。すなわち、公海、その上空、外国の領域における後方支援を可能にしました。武器使用についても、PKO協力法などより広げ、「自己の管理下に入った者」を防護対象に含めています。この法律により、海上自衛隊の補給艦がインド洋で米軍などに給油活動をしています。戦時下における海外での初の軍事行動です。後方支援であっても戦争の行方を決する不可欠な要素であり、給油活動は武力の行使と一体として、政府見解でも禁止されているとされる集団的自衛権の行使であると批判されています。
 03年には、アメリカの将官の証言をきっかけに、イラク作戦に参加している事実が明らかになりました。
 この法律は一時失効しましたが、直後に継続法が成立しました。鳩山内閣は来年1月で期限切れを迎える継続法を延長せず、アフガニスタンに50億ドル規模の民生支援を行うことを表明しています。