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2003年

 
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イラク戦争と日本/有事関連法成立
H.T.記

T イラク戦争と日本

 2003年7月、日本は「イラクにおける人道復興支援活動及び安全確保支援活動の実施に関する特別措置法」を成立させ、陸上自衛隊と航空自衛隊を派遣しました。アメリカは同年3月の開戦前から日本に対して、「ブーツ・オン・ザ・グラウンド」(地上に部隊を)と協力を強く求めていました。小泉首相はいち早くアメリカ支持を打ち出し、この法律を成立させました。自衛隊が戦争中の外国に上陸して行った初の戦争(支援)活動として歴史を画しました。

 イラク戦争は、イラクに対する「大量破壊兵器(生物化学兵器)の廃棄」などを求める停戦協定(安保理決議687)違反、同国に対する無条件の査察を求める安保理決議1441などに基づき、米英など「有志連合」軍によって起こされました。仏独露中などは、決議1441では開戦できないと強力に反対しました。しかし、米英等は、イラクは大量破壊兵器を所有しているのに無条件査察に応じないということを理由に、この年の3月、先制的自衛権の行使として(フライシャー報道官の言明)開戦しました。戦争の理由は、フセイン政権とアルカイダの結びつきや、イラクの民主化なども追加されました。しかし、大量破壊兵器は発見できず、アルカイダとの結び付きも証明できませんでした。アメリカが攻撃されることも証明できませんでしたから、「先制的自衛権の行使」というよりも、せいぜい「予防」のための侵略戦争であるという見方が支配的になりました。

 後に、戦争を正当化するためのブッシュ政権の情報操作も次々と明らかになりました。「ブッシュ政権発足当初からイラク戦争の計画はあった」(元財務長官のポール・オニール)。戦争の真の目的はいろいろ指摘されています。例えば、@アメリカは70年代半ばから世界最大の原油埋蔵量を誇るペルシャ湾岸で支配権を確立するため軍事介入策をとって来たこと(「湾岸戦争」参照)、A資本主義と違い「正当な労働の対価以外は受取ってはならない」という価値観を持ち投機を否定するイスラム諸国をグローバル資本主義経済圏に組み込むこと(内橋克人「悪魔のサイクル」)、B「イスラエルを守るため」(山崎拓・07年3月9日付け朝日新聞)、C「フセインはドルでの石油代金を拒否しユーロでしか受取らないと宣言した。石油通貨が移行することはアメリカのドル支配の終焉を意味する。これがイラク戦争を仕掛けた真実だ」(浜田和幸「08年2月9日号週刊現代」)等々。

 日本は3つの点で米軍等を支援しました。まず、安保理でイラク戦争合法化のための多数派工作を積極的に行いました(愛敬浩二「改憲論を診る」)。次いで、日本の基地から米軍が出撃しました。第3が、冒頭の特措法です。明文上は自衛隊の派兵は「非戦闘地域」に限られ、限定的な「武器使用」に止められました。また、活動目的として「人道復興支援」が強調されました。マスメディアもほとんど完全に政府情報に乗りました。しかし、自衛隊の活動の主要な柱である「安全確保支援活動」の実態は隠蔽されました。空自がサマワに医療機器を輸送したことから「復興支援」だとして大宣伝された翌々週の04年3月19日には武装米兵等の空輸が始まりました。空自が活動の中心になった06年7月から活動が終わった08年12月までの124週分だけで、空輸した2万6384人のうち米軍が1万7650人と67%を占めました。バクダッドや北部のアルビルなど戦闘地域にまで空輸しました(09年10月6日付け毎日新聞等)。

 08年4月17日の名古屋高裁判決は「現在イラクにおいて行われている航空自衛隊の空輸活動は,戦闘地域で戦闘行為に必要不可欠な後方支援を行っており、他国による武力行使と一体化した行動であり、政府と同じ憲法解釈に立ち,イラク特措法を合憲とした場合であっても、武力行使を禁止した同法に違反し,かつ,憲法9粂1項に違反する活動を含んでいることが認められる。」との違憲判決で断罪しています(伊藤真・川口創「おおいに語ろう、自衛隊イラク派兵違憲判決・前編後編)」参照)。日本が国連決議にも違反し、集団的自衛権の行使とも言えない侵略戦争で「武力を行使」して「戦争」した事実の検証を国会、政府、マスメディアはきちんと行うのか、注視されています。

U 有事関連法成立

 90年代からの改憲論の活発化のうねりの中で、有事立法を求める議論が現れました。有事とは、一般に、戦争、内乱、大規模災害など、国や国民の平和と安全に対する非常事態をいいます。日米新ガイドライン(1997年)や北朝鮮脅威論、イラク戦争などをてこに、03年6月、いわゆる有事3法(武力攻撃事態法、改正自衛隊法、改正安全保障会議設置法)が成立。翌年の6月には有事関連7法と3条約が成立しました。基本法である武力攻撃事態法は、国外での戦争も想定しており、憲法9条のみならず政府の解釈との矛盾が出てきています。すなわち、同法が定めている「武力行使が予測される事態」には、日本への直接の攻撃がなくても、たとえば北東アジアのどこかで米軍が紛争に介入したような場合、日本の「周辺事態」ということで日本が米軍が始めた戦争に巻きこまれ、あるいは攻撃的に加担する場合が予定されています。専守防衛で「日本有事」のはずの有事法制の変質です。この場合にも自衛隊は、自治体や指定公共機関を巻き込んで、補給活動など米軍と「共同行動」を行うことになります。04年に武力攻撃事態法を補完するものとして成立した「国民保護法」の非現実性も議論になっています。これは、日本が攻撃された場合の住民の避難のマニュアルです。しかし、たとえば有事の一つにされている「航空攻撃」にしても、空襲とか巡航ミサイルがどんどん飛んでくるという事態が起こったならば、特に大都市では避難など不可能になります。また、「有事」にはテロのような「緊急対処事態」が組み込まれています。テロは突発的に起きるものです。したがって、避難どころではなく、国民保護法制は、住民を保護するものではないと指摘されています(石埼学「『国民保護体制』と、自由の基礎としての第9条の意義」)。