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2004年

 
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派遣業務の拡大/初の「少子化社会白書」/「九条の会」等発足/綿矢りさ・金原ひとみさん芥川賞受賞
H.T.記

T 派遣業務の拡大

 2004年、労働者派遣法が改正され、物の製造業務の派遣が解禁されました。

 戦前の日本では親方が人夫を配下において工場や鉱山に送り込んで奴隷のように働かせてピンハネ(中間搾取)をする労働者供給事業(口入れ稼業)がはびこっていました。
 1947年、職業安定法はそうした悪習を断つために労働者供給事業を営むことを禁止。違反者には懲役か罰金が課せられました。労働基準法も、中間搾取の禁止を明記しました。これは、1944年のILO総会で採択されたフィラデルフィア宣言(正称は「国際労働機関の目的に関する宣言」)も受けています。ここでは、「労働は商品ではない」など四つの根本原則を定めています。
 企業は労働者を直接雇用すれば、労働基準法、労働安全衛生法、労災保険法、労働組合法など、さまざまな法的責任を負います。正当な理由がないと解雇もできません。しかし、間接雇用ならこれらの雇用責任を負わないので、労働者の権利を守るため、間接雇用は禁止されました。

 しかし、新自由主義による規制緩和の中で、97年、ILOは181号条約で派遣労働を自由化しました。尤も、欧米では派遣労働は「一時的労働」を表す「テンポラリー・ワーク」と言います。日本ではこれを「派遣」とあえて誤訳し、恒常的な仕事にも広げました(脇田滋08年12月19日付け朝日新聞)。すなわち、86年に専門業務に限定して例外的に認められていた労働者派遣法を、99年には製造業等を除き原則自由化しました。しかも、ILO条約で謳っていた、派遣労働を認めることとセットの労働者保護策は素通りしました。ヨーロッパでは、派遣労働者と正社員との均等待遇の法制化(賃金や失業給付など)を広げ、派遣労働の拡大に歯止めをかけました。日本では安全網を作らず、しかも04年には製造業にも拡大したため、派遣労働は急速に広がりました。

 憲法27条2項でいう労働条件を定める「法律」は、25条の生存権保障により制限され、人間らしい労働条件を保障しない派遣労働は憲法違反の問題を生じるでしょう。

 今、秋葉原の連続殺人事件や1年まえの「年越し派遣村」など象徴的な事例をきっかけに、一つは、労働者派遣法の改正が提起されています。究極の不安定雇用である登録型派遣の原則禁止、製造業への派遣の禁止、違法行為があった場合には派遣先企業に直接雇用義務を課す「みなし雇用」の導入などです。二つ目は、例外として残る派遣労働を正社員と均等待遇にすることです。
 直近では、派遣法の改正を見越して、派遣より一層労働者の権利を保護しない請負などに切り替える動きが出ています。

U 初の「少子化社会白書」

 04年、政府は初の「少子化社会白書」(04年度版)をまとめました。この年の人口動態統計によると合計特殊出生率は1.29。出生数は1899年に統計を始めて以来最低の出生数111万人。

 少子化は75年以降進展しました。90年頃までは晩婚化の影響によるものでしたが、その後は結婚した夫婦の子供数も減少しています。政府は少子化の原因を女性の社会進出や晩婚化によるを価値観の多様化と説明していました。しかし、アンケートによれば、結婚前の若い人の9割が結婚したいといい、2人以上の子どもが欲しいと答えています(06年12月21日付け朝日新聞)。

 「子供を生み育てることによる生活の困難」が、結婚したい、子供を生みたいという希望を奪っています(山田昌弘「希望格差社会」)。

 その後、出生率は1.3台にまで回復しましたが、子育て環境は基本的には改善されていません。一方における非正規雇用の増大等による賃金の低下、他方における正社員を含めた長時間労働、男性の仕事中心主義などが壁になっています。フランス、イギリス、オランダ、スウェーデンなど欧州で出生率の回復に成功している国々では、年間労働時間が短いこと、男女の賃金格差が小さいこと、パートなど均等待遇のルール、高率の賃金を保障する育児休暇、家族・子どもむけ公的支出の拡大などへの取り組みが背景にあります(社会保障総合センター編「『福祉国家』に立ち向かう」)。

 結婚できない、子供を持てないという問題は、人生における最も重要な基本的人権の一つの侵害という視点から捉えるべきでしょう。

V 「九条の会」等の発足

 憲法改定の動きに呼応して、この年の6月「九条の会」が、8月には「憲法行脚の会」が発足しました。「九条の会」のアピールでは、「日本と世界の平和な未来のために、日本国憲法を守るという一点で手をつなぎ、『改憲』のくわだてを阻むため、一人ひとりができる、あらゆる努力を、いますぐ始めることを訴え」ています。「九条の会」は、政治的には保守の方々を含む全国津々浦々の広範な人々が参加し、それぞれ創意工夫した独自の取り組みを継続的に追求する歴史的な市民運動として、現在も増え続けています。

W 綿矢りさ・金原ひとみさん芥川賞受賞

 この年の芥川賞はとりわけ注目を浴びました。19歳の綿矢さんと20歳の金原さんという、現在に至るも最年少記録の1、2位に並ぶ当時無名の才能豊かな女性作家が、「今時」の若者の鋭敏で新鮮な感性をまとっていきなり登場したからです(「文藝春秋」04年3月号)。綿矢さんの「蹴りたい背中」は、「高校における異物排除のメカニズムを正確に書き」「その先で、警戒しながらも他者とのつながりを求める心の動き」が語られています(選者・池澤夏樹氏の評)。金原さんの「蛇にピアス」は、刺青にふける密室生活に殺人がからまり、大人からみると「特異な世界」とも映りますが、本人たちにはピュアな愛の物語でしょう。「この現代における青春とは、なんと閉塞的なものなのだろうか。誰しもが周りに背を向け孤独や無関心、あるいは無為の内に自分を置いてどうにか生きている観を否めない」という選評(石原慎太郎氏)は、一面の真実を語っていますが、外の世界へのつながりを探りたい若者の叫びも聞こえるように思えます。