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2005年

 
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日米安保条約の「終焉」/郵政民営化/京都議定書発効
H.T.記

T 日米安保条約の「終焉」

 現在、国民のほとんどは、日米安保条約が生きていると思っています。しかし、05年10月に日本の外務大臣、防衛庁長官とアメリカの国務長官、国防長官が署名した「日米同盟:未来のための転換と再編」(以下「新文書」と称する)という文書によって、実質的には終わりました。「転換=transformation」とは、昆虫の変態のように、根本的な変化を表します。安保条約は形のうえでは残っていますが、「新文書」によって同一性を失い変質しました。

 第1に、対象の範囲が変りました。安保条約第6条では、あくまで「極東」の安全保障の確保に限定しています。しかし、「新文書」は、日米同盟は「世界における課題に効果的に対処するうえで重要な役割を果している」としました。対象が世界に拡大されました。96年の「日米安保共同宣言」と97年の「新ガイドライン」も、「極東」を超えて「アジア太平洋地域」や「日本周辺」に拡大していますが、「極東」以外の協力は「平和維持活動や人道的な国際救援活動」に止まります。従って、安保条約の枠内にあるとも言えました。
 
 第2に、条約の理念が変りました。安保条約では国連の役割を重視しています。国連憲章は、「永久平和のために」を書いたカントの理念を具体化して、平和的な手段による紛争の解決の発展を追求しています。これに対して、「新文書」ではこの傾向は見られません。「国連」に代わって登場したのが「日米共通の戦略」です。この新しい戦略は、冷戦終了後の1991年から一貫して流れる、アメリカが核兵器を含む先制攻撃さらには予防戦争も辞さない、軍事力の行使による「国際的な安全保障環境を改善する」政策です。冷戦終了後のアメリカの戦略はより攻撃的なものに変化しました。「日米共通」と称しても、実態はアメリカに主導された戦略となることを否定する論者を見つけるのは困難です。

 「新文書」に基づき、地球規模で臨機即応態勢を取るべく、座間、横田、横須賀など、日米両軍の司令部の一体化が急ピッチで進められています。

 「条約改定に匹敵する」(05年10月31日朝日新聞社説)「新文書」が国会の承認の手続を採らなかったこと、憲法9条の形骸化をはらんでいることは、民主主義の観点から問題となっています。さらには、大多数のマスメディアがこの「終焉」を明確に報道しないため、国民の知る権利が侵害されていることも問題とされています(以上、孫埼享「日米同盟の正体」、梅林宏道「米軍再編―その狙いとは」等参照)。

U 郵政民営化

 05年4月、小泉政権は郵政民営化関連法案を国会に提出しました。しかし、野党はもちろん自民党内からも造反議員が多数出て廃案となりました。そのため、小泉首相は、「郵政民営化」を唯一の争点として掲げて衆議院を解散しました。結果は、民営化を「善」とする「小泉劇場」とも称される雰囲気の中で自民党は圧勝。選挙後の特別国会で法案は可決されました。

 民営化が必要な理由は、「郵貯、簡保で吸収された巨額な資金は公務員によって配分され、国債、財政投融資、公的事業などに配分されてきた。これを民間に取り戻し、市場原理に基づいて効率的に配分すれば、非生産分野への資金供給が抑制され、日本経済に活性化が実現しやすくなる」「民営化は金融機関の優勝劣敗を促し、金融自由化の総仕上げになる」(小泉首相)など、様々な角度から唱えられました。

 これに対しては、民営化の狙いは300兆円という巨額な資金を自由に使用できるようにして米国債の購入などでアメリカの財政危機を救済し金融資本を強化することにあり、日本国民の利益にはならないことを中心とする反対意見が主張されていました。

 総選挙で国民が民営化の是非をきちんと理解して投票したとは到底言えませんでした。民営化が唯一の争点とされながら、マスメディアが反対論者の意見を生のまま伝えることをほとんど止め、「劇場」演出の一役を担ったことも背景にあります。

 今年の総選挙の結果、連立政権は、臨時国会に株式売却の凍結法案(日本郵政株式会社、郵便貯金銀行及び郵便保険会社の株式の処分の停止等に関する法律案)を提出。法案は会期末の12月4日、可決成立しました。

V 京都議定書発効

 地球温暖化防止のため、気候変動枠組条約締約国会議(Conference of the Parties、COP)が毎年開催されています。97年12月に開催された第3回締約国会議(COP3、京都会議)では、温室効果ガスの削減義務について法的拘束力のある数値目標を定める京都議定書が採択され、ロシアの批准により05年、発効しました。現在、先進国で批准していないのはアメリカだけとなりました。

 重要な問題の一つは、途上国の参加をどのように確保するかです。途上国は、温暖化の主要な責任がある先進国の責任において解決すべきだと主張しています。先進国と途上国の、これまでの温暖化の責任と環境保護能力の格差を踏まえて調整したのが「共通だが差違ある責任」の概念です。京都議定書は、この考え方に基づき、先進国と市場経済移行国に対してのみ全体として、対象ガスの人為的な総排出量を、目標期間内に90年よりも少なくとも5%削減することを義務づけました。最大排出国であるアメリカの参加拒否にどう対応するか、中印等途上国の削減義務をどう検討するか、2013年以降の国際的な枠組み(「ポスト京都議定書」問題)が、重大な問題となっています。今月開催されたCOP15(デンマーク)でもこれらの課題の解決は先送りとなりました。