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2009年

 
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政権交代
H.T.記

 「政権交代」が「2009年ユーキャン新語・流行語大賞」に選ばれました。政治関連では、「事業仕分け」「脱官僚」も大賞候補のトップテンに入りました。

 昨年8月30日に行われた衆議院議員総選挙で、民主党は308議席を獲得、64.2%の議席を占め「圧勝」しました。自民党は、1993年に下野して細川連立政権ができたときにも衆院第1党でしたから、「歴史的敗北」でした。今回は、選挙前に「争点は政権交代だ」と盛んに宣伝されたこともあり、「自民党はダメ」「一度政権を代えなければ」という意思の表明としての性格が強かった選挙でした。
 選挙は、少数派の意見が議席に反映されにくく「改正」された小選挙区制中心の小選挙区・比例代表並立制の下で行われました。仮に各党の比例票で480議席を配分した場合、民主党は得票率42.4%で204議席、自民党は26.7%で128議席、その他の少数政党は28.8%で139議席(実際より94議席増)になります。比例代表区の得票率から見ると「圧勝」ではありません。資本主義が行き詰まり、多様な将来像が摸索され、価値観の見直しも提起されて少数意見の意義が益々重要になってきている現在、今回の選挙による民主主義の「前進」の意義を過度に強調することは慎重でなければなりません(参考:浦部法穂「政権交代」)。

 新政権は、自公政権との違いを浮き彫りにしたいということで、新しいメッセージを次々に発信しました。篠原一氏は、「『第二民主制』建設の試みといってもよいだろう」と評しています(「世界」09年12月臨時増刊号「大転換」)。

 第1に、政策決定システムの転換です。「官僚主導から政治家主導へ」の理念で、事務次官会議の廃止、政務3役会議による政策決定など、変化が進行しています。「官僚主導」の実態は、官僚が財界をはじめとする利益集団と政治家の利益を反映しつつ国民全体の利害を調整した利益誘導政治にあります。政財官の癒着の構造の一環です。これに(一定の)メスが入った意義は大きいでしょう。国民に一番近い位置にいる政治家による「事業仕分け」が公開されたことは、情報公開、説明責任という民主主義の促進の面で新鮮に映りました。

 第2に、「国民の生活が第一」のスローガンの下、予算の組み替えをして、「コンクリートから人へ」、つまり「土建国家」から「福祉経済」への転換に踏み出しました。10年度の予算案では、公共事業費は前年より18.2%減少しました。代わりに、社会保障費は子ども手当の創設などで9.8%と大幅に増額されました。

 第3に、日米同盟の再検討を打ち出しました。「日米地位協定の改定を提起し、米軍再編や在日米軍基地のあり方についても見直しの方向で臨む。」とし、「東アジア共同体の構築をめざ」すとしたことは、「第一民主制」ではおよそ考えられなかったことです(以上「季刊ピープルズ・プラン」09年Autumn号等参照)。

 しかしながら、これらの新機軸は未知数の面が多く、また、多くの問題点が含まれています。

 上記第1の点については、「政治家主導」という名の下における民主党の「国会改革」案が憲法の予定する民主主義の理念に逆行するのではないかという問題があります。憲法は国民主権の大きな具体化として国会を「国権の最高機関」としています。しかし、改革案は、内閣と政権党指導部などの中枢部だけで政治を効率的に動かす仕組みづくりであり、小沢一郎氏が90年代から追求してきた「政治改革」の総仕上げであるという指摘が多数見られます(論稿「民主党が進める『国会改革』と国民主権」)。

 第2の点については、財源不足に制約された限界が目立ちます。税制や社会保障制度全体を見直し、体系的な所得再配分政策を提示することが求められています。

 第3の点については、民主党の外交ブレーンと称されている寺島実郎氏からも、「国際社会の常識に還って「『独立国に外国の軍隊が長期間に渡って駐留し続けることは不自然なことだという認識を取り戻』」し「知的怠惰」を排することが提起されています(「世界」10年2月号)。普天間基地の問題もこの枠組みの中で解決されるべきだと。

 今夏に迫った参院選では民主党は単独過半数を目指しています。両院で単独過半数を獲得して実現を目指す事項として、@衆院比例区定数80の削減(衆院戦のマニフェストに掲載あり)、A消費税増税法案の制定、B9条を含む憲法改正が議論されています。それぞれ上記第1〜3に対応する問題です。

 これらの課題が実行に移される段階になると、政界の再編成が予測されます。その意味では、参院選前の現在は最も重要な過渡期だという見方もできます。国民の一人ひとりが憲法の真の理念に立ち返って地に足の付いた自分の意見を持つこと―民主党が強調する「国民主権」の意味を自分の問題に引き付けて具体化すること―が早急に求められています。