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2012年

 
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社会保障と税の一体改革
H.O.記

 2012年8月、社会保障の財源を消費増税で確保すると同時に財政健全化を達成する、という内容の「社会保障と税の一体改革」に関する関連法案が国会で可決・成立しました。それは、具体的には、5%の消費税率を8%、10 %へと引き上げ、増税による収入の約2割を社会保障の充実に、残り約8割を借金返済など財政再建に充てる、という内容でした。

 2012年は、1947年から49年に出生した「団塊の世代」が65歳を迎え、65歳以上の人口が大幅に増加する年でした。総人口に占めるその割合=高齢化率は24.1%となり、世界に類を見ない日本の高齢化が急速に進んでいました。高齢者の生活や健康のための年金や医療費などがいよいよ増大し、社会保障費が毎年1兆円規模で増え続ける中で、持続的な社会保障制度の確立が求められていました。
 一方、日本の財政は、1990年代から債務残高が大きく上昇し、それは主要先進国の中で最悪の水準となっていました。2006年、小泉政権は「経済財政運営と構造改革に関する基本方針(骨太の方針)」で、2011年度に基礎的財政収支=プライマリーバランスを黒字にする目標を掲げました。しかしこの方針に基づく社会保障予算の削減への批判が高まり、また世界同時不況の影響もあり、2009年、麻生政権はその目標を先送りする方針に転じました。そして2010年、民主党の菅政権が2020年度までにプライマリーバランス黒字化を果たすという方針を決め、その具体化・推進が大きな課題になっていました。
 財政健全化のためには税収の確保が必要だとし、歴代の多くの政権が1989年に導入された消費税の増税を検討してきました。しかし、1997年に橋本政権がそれを3%から5%に引き上げて参議院選での大敗を招いたこともあり、以降消費増税は回避されてきました。
 民主党は2009年に政権交代を実現しました。しかし、参議院では議席が過半数に達せず、国会は「ねじれ」た状態にあり、諸政策の決定が停滞していました。こうした状況のもとで野田政権は「社会保障と税の一体改革」をすすめ、民主、自民、公明の「三党合意」が成立し、関連法が制定されるに至ったのです。

 一体改革の関連法案成立後、野田政権は衆議院解散を余儀なくされ、同年12月の総選挙での民主党の敗北によって退陣することになりました。一体改革については、当初から民主党内にも消費税引き上げなどに対する異論が多く、「三党合意」や法案の審議・採決の際にも多くの造反者が出る状況だったのです。
 一体改革は自民党の安倍政権に引き継がれることになりました。しかし、その後2014年に消費税の8%への引き上げは実施されましたが、社会保障の充実も財政再建もほとんど進みませんでした。「社会保障と税の一体改革」は、結局は消費税の増税だけ、とも言える結果となっています。
 
 消費税の引き上げには多くの国民が反対してきました。しかし、この一体改革をめぐる動きの中で、「消費増税やむなし」との雰囲気が生まれることになりました。少子高齢化の中での社会保障制度の維持、そのための税収確保、そのための消費税増税、との論調が、政界・財界に加え、大手メディアによってさかんに報じられ、それが消費増税を決める大きな要因になったと思われます。
 このことは冷静に検証される必要があるでしょう。誰もができるだけ税の負担を減らしたいと思います。しかし、負担が少なければほんとうに必要な公的サービスも縮小され、私たちの生活の「安心・安全」が脅かされることになりかねません。私たちが国にどこまでのことを求めるかを明確にして税のあり方を考えることが、きわめて重要です。同時に、国の各種歳出がほんとうに必要なのか、適正なのか、ということも吟味が必要です。さらには、税収確保は消費増税に頼るしかないのか、という問題もあります。
 消費税の特徴として、それが特定の世代に偏らずに広く全世代が負担する財源であることや、景気に左右されにくく安定した税収を得やすいことなどがあげられます。また、日本の消費税率は主要先進国と比べて低い水準にあり、引き上げの余地がある、と言われます。しかし、消費税には、相対的に低所得者ほど負担が重くなるという逆進性があります。
 政府やメディアからの情報を国民が鵜呑みにするのではなく、それを冷静にとらえ判断する力を身につけていくことが大切です。「すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する」…この憲法25条を真に実効あるものにする制度をどう築いていくかが問われることになります。