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2013年

 
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アベノミクス/TPP交渉への参加表明
H.O.記

アベノミクス

 2013年1月、安倍首相は「大胆な金融政策」「機動的な財政政策」「民間投資を喚起する成長戦略」という「3本の矢」による経済政策=アベノミクスを表明しました。前年暮れの総選挙で勝利した自民党と公明党による安倍内閣はこの政策によって、長期のデフレを脱却し、名目経済成長率3%を目指すことにしました。
 「大胆な金融政策」として、政府は日本銀行との政策連携を強化しました。日銀は、2013年4月、2年程度を念頭に2%の物価上昇の実現を目標とし、国債の大量買い入れによって資金供給量(マネタリーベース)を2年で2倍に増やすという「量的・質的金融緩和」(黒田東彦・日銀総裁による「異次元緩和」)の導入を決めました。
 「機動的な財政政策」として、総額20兆円の公共投資で景気を下支えすることとしました。小泉政権から続く公共事業削減路線に決別し、2014年度予算は一般会計の歳出総額が 95兆円をこえる空前の規模となりました。
 「民間投資を喚起する成長戦略」として、農業、医療、雇用などの規制緩和とこれを地方に広げる地方創生特区の導入や、TPPなど自由貿易の推進、女性や外国人の活用、法人税の減税などを掲げました。

 このアベノミクスによって、1ドル=80円台で推移していた円相場が年末には105円台となる円安になりました。その結果自動車や半導体といった製造業やメーカーなどの企業の輸出が増え、その株価(日経平均)も10,000円台から16,000円台へと上昇することになりました。また株価上昇で潤った富裕層が、都心のマンションや投資用の収益物件、高級貴金属などを購入するようになり、経済の風景が大きく変わることになりました。
 大手メディアはこうしたアベノミクスの効果を大きく報じました。

 しかし、アベノミクスについては冷静に分析・評価されなければなりません。
 金融緩和で円安になり、公共投資が増やされ、その結果業績が回復した大企業で社員のボーナスが増えることはあっても、それは全体には波及せず、庶民の暮らし・家計は依然厳しい状況が続くことになりました。第3の矢とされた成長戦略は目に見える成果を収められず、景気回復は軌道に乗りませんでした。

 アベノミクスは開始から5年を経過した今も物価上昇率2%を実現できていません。安倍首相は雇用の改善を宣伝しますが、増えたのは非正規の労働者が中心です。大企業の儲けは株主への配当や内部留保としてためこまれ、労働者の実質賃金はむしろ減少し、その後の日銀による異常なゼロ金利やマイナス金利で国民の貯蓄は目減りしています。ワーキングプア(働く貧困層)も増えて、貧困と格差が拡大しています。
 安倍首相はこの間選挙のたびにアベノミクスの継続や加速を掲げてきました。しかし、「富める者が富めば、貧しい者にも自然に富が浸透する」というトリクルダウン理論に基づくとされるアベノミクスは、もはや破綻していると言えるでしょう。景気回復のカギを握るのは国のGDPの半分程度を占める個人消費の改善だと言われます。すべての国民が「健康で文化的な最低限度の生活を営む」、そして国は「すべての生活部面について、社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努める」という憲法25条を実現・具体化する経済政策のあり方が問われなければなりません。

TPP交渉への参加表明

 2013年2月、安倍首相はオバマ米大統領との会談で、事実上のTPP参加を表明しました。TPPは環太平洋戦略的経済連携協定(Trans-Pacific Strategic Economic Partnership Agreement)の略です。太平洋環状に位置する、アメリカ、日本、ペルー、ベトナム、オーストラリアなど12か国がお互いに協力し合って貿易を強化していこうというものです。
 TPPは輸出入の関税を原則撤廃し日本の輸出が増えるメリットがある一方で、多国籍大企業や国際競争力の強い国の利益を優先し、日本の農林漁業等に深刻な打撃を与える、としてJA(農協)などが猛烈に反対していました。また、TPPは遺伝子組み換え食品などの拡大、医薬品価格の高騰なども招くことになると、広範な団体・市民がその危険性を指摘し、TPPへの参加に反対しました。自民党も当初はTPPに反対でした。しかし2012年末の政権復帰後、安倍首相は経済界などの意向をふまえ、米・小麦・乳製品・砂糖・牛豚肉の重要農産物5品目は関税撤廃の例外扱いとすることを求めていくとして、TPPへの参加を進めることにしたのです。

 TPPの交渉で、重要農産物の関税撤廃などの日本の要求はほとんど実現しない中で、TPPは2016年に署名され、日本は2017年に協定を締結しました。
 なお、2017年、アメリカのトランプ大統領はTPPからの離脱を表明しました。ところが、2018年になって一転、TPPへの復帰の検討をはじめました。TPP問題はあらためて重要問題になろうとしています。

 貿易自由化には一定のメリットがあることも事実です。また、世界経済のなかで自由化の趨勢は止められないでしょう。自由化については憲法の国際協調主義をふまえて考える必要もあるでしょう。その上で、農林漁業などへの悪影響を考えるならば日本のTPPへの参加は見直されるべき、との国民の主張と運動がいまなお続いていることは当然のことでしょう。TPPに参加する場合でも、農林漁業の実効的な振興策などが策定・実行されなければなりません。