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2014年

 
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STAP細胞騒動
H.O.記

 2014年1月19日、理化学研究所(以下、理研という)などが、様々な臓器や組織の細胞に成長する新たな万能細胞=STAP細胞を作製することにマウスで成功したと発表しました。STAP細胞は「生物学の常識を覆す」「世紀の大発見」と大々的に報道され、国内外の関係者からは称賛と驚きの声が上がりました。
 ところが理研はその後、科学専門誌「ネイチャー」に発表されたSTAP細胞の2本の研究論文に対して、画像データに加工されたように見える部分があることや、別々の実験による画像データがよく似ているといった指摘が寄せられたため、調査を始めました。そして4月1日、STAP細胞の研究について研究ユニットリーダー・小保方晴子さんらが発表した論文に画像の捏造(ねつぞう)などの問題があった、「研究に不正行為があった」と断定する、内部調査委員会の最終報告を発表しました。なお、報告は、この不正行為は小保方さんによる単独行為であった、としました。
 その後理研はSTAP細胞が存在するかどうかの検証実験を行い、同年12月19日、STAP現象は確認できなかった、「ネイチャー」論文に出された細胞は別の多能性細胞(ES(胚性幹)細胞)の混入に由来するもの、と報告し、この問題はいちおうの決着をみることとなりました。

 STAP細胞をめぐる問題は日本の生命科学研究の信頼性を揺るがす大事件になりました。権威ある科学誌に発表した論文が、そこに不正があったと認定され、取り下げられることになったのです。小保方さんが「200回以上作製した」というSTAP細胞はその検証実験でもつくりだすことができませんでした。こうした事態がなぜ生じたのでしょうか。小保方さんが美人でリケジョ(理系女子)だったこともあり、報道も過熱し、この問題は多くの人々が注目したわけですが、STAP細胞をめぐる一連の経緯から、その背景にも目を向けて教訓を引き出すことは、今後の日本の科学研究にとって大変重要なことと言えます。

 データを捏造(ねつぞう)するようなことは研究者としてあるまじきことです。小保方さんが画像の切り貼りなどの非を認め謝罪したことは当然のことです。研究者が科学者としての倫理規範を再確認すべきことは言うまでもありません。同時に、小保方さんの指導にあたった研究者などはその研究をどう見ていたのか、批判的検討などはなされていたのか、理研のガバナンスはどうだったのか、ということも問われる必要があるでしょう。
 さらに目を向けるべきこととして、こんにちの生命科学研究や研究者をめぐる状況があります。
 こんにちの生命科学研究には再生医療技術の開発などの成果を求める政治や行政からの要請が強く働いていると言われます。儲かる商品の開発や短期的な研究成果が奨励されるような、経済至上主義的な動きの中で研究活動が歪められている、ということはないでしょうか。
 基礎研究は長年の地道な努力の積み重ねの上に開花するもので、その上に実現した真の研究成果は人類に多大な恩恵をもたします。ところが、日本ではこの基礎研究が軽視されていると言えるでしょう。日本の基礎研究に対する予算措置の少なさはノーベル賞受賞者などからも指摘されています。政府は科学研究に対する資金の競争的重点配分や研究者への任期制の推進などでその傾向を加速させています。総じてすさまじい競争を強いられている科学研究の研究機関と研究者をめぐる問題はさらに深刻化しているのではないでしょうか。
 こうした問題はSTAP細胞についての小保方さんの研究の背景にもあるでしょう。

 科学研究の進展は人間社会にこれまでにない変化を及ぼすことになり、そのための学問には大きな意義があります。憲法が「学問の自由は、これを保障する」としていることを真に日本の科学研究にも活かしていかねばなりません。科学技術の発展は人文社会科学のいっそうの振興も必要とする、ということも付言しておきたいと思います。
 なお、昨今防衛省などが軍事技術につながる研究への助成を推進するようになっていることも看過できない問題です。