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書籍『分断された法廷——南北対立と独裁政権下の政治裁判』

H・K


法廷の内外で戦い続けた弁護士が語る韓国民主化への歩み
『分断された法廷——南北対立と独裁政権下の政治裁判』(日本語版)

執筆者 韓勝憲(ハン・スンホン)
翻訳者 舘野あきら
発行所 株式会社 岩波書店
発行日 2008年2月28日
定 価 2800円+税

 「韓国の代表的な良心的弁護士」と金大中元大統領が称した韓勝憲弁護士。1934年に韓国・全羅北道に生まれ、1957年に韓国の司法試験に合格し、法曹の道を歩み始めた。その半生は、戦後の韓国、朝鮮半島(韓半島)の現代史と重なり合う。
 現在、70代後半を迎えても、なお現役の弁護士(法曹)として活躍するだけでなく、韓国の司法制度改革に深く関わり、言論界、様々な人権活動(アムネスティなど)などで精力的に活動を続ける。金大中政権時(1998年〜2003年)には、監査院長の重責を担うなど軍事独裁政権から民主化を実現し、定着に向かう道を歩むにあたって、中心的役割を果たした人物の一人である。
 韓弁護士に関するエピソードはその幅広く深い活動から、数え切れないが、その1つを紹介したい。

 「彼はいつも負けながら本当は勝っている弁護士だった。これらすべての事件のたびに無罪を弁論したが、無罪よりは有罪になるのが常だった。ある人はこれを『法の極致が不法の極致に転落する時代』だからであり、『無罪が確実であるが、有罪が宣言されるということが、また確実だった司法府の曲法府化減少によって一層深まった』。しかし、長い年月を経過すると、いつも法廷に立った被告人が無罪になるのだった。長い暗黒の時代が終わって、彼と彼の被告人を法廷に立たせた人々が、今度は法廷に立たされる暁の時代がやってきたのだ。」

 これは、本書の日本語版の出版記念会の際に配られた冊子=「法廷を見つめた韓国現代史——韓勝憲弁護士の生と人権弁論」(朴元淳(弁護士))の中の文章である。

 「彼はいつも負けながら本当は勝っている弁護士だった。」、この一文に韓弁護士の弁護士としての姿勢が語り尽されている。
 韓弁護士は、朴正煕、全斗煥と続く軍部による独裁政権下で発生、あるいはでっち上げられた政治事件、時局事件の被告人の弁護を引き受ける当時としては数少ない弁護士の一人だった。
 また韓弁護士自身も朴正煕政権時代の1975年1月21日に反共法違反事件(『ある弔辞』反共筆禍事件)で不当にも実刑判決を受け(この結果、8年間も弁護士資格を剥奪される)、1980年5月の光州民主化運動に対する全斗煥(この時点では、大統領ではなく、クーデターにより韓国全軍を掌握していた)の大弾圧の中、金大中元大統領とともに逮捕され、
有罪判決を受けるなど、自らも弾圧事件の当事者として戦ってきた。

 その韓弁護士の手による著書が本書である。「1960年代以降の韓国の政治状況と歴代軍事独裁の中で、民主主義と人権を獲得するための韓国国民の戦いを理解するのに役立てば嬉しく思います。韓国が今のような自由と民主主義を享受できるようになるまで、実に多くの人々の戦いと犠牲が重なったという事実も忘れることができません。そして、その方々の信念と受難をありのままに伝えることが、殺伐とした法廷の弁護人席を守った私の『忘却防止義務』であると考えています」(本書「日本の読者の皆様に」から)と述べ、日本語版の発行に至った思いを語る。
 本書は5章立てとなっており、各章に「時代の素描」が置かれている。これにより、韓弁護士がかかわった事件が発生した時期(政権)の韓国政治、社会状況と事件の歴史的背景が理解できるように配慮されている(章立ては次の通り)。
第1章 戒厳令と反共法——朴正煕政権時代1
第2章 維新憲法と緊急措置の下で——朴正煕政権時代2
第3章 光州民主抗争と反軍事政権闘争——全斗煥政権時代
第4章 民主化と統一への潮流——盧泰愚政権時代
第5章 分断時代を克服する道——金泳三・金大中・盧武鉉政権時代

 本書で解説される各事件の一つひとつが、民主主義と人権を獲得する戦いそのものである。
 同時に本書の通底する韓弁護士の思いは、朝鮮半島における「分断の歴史」の克服である。
 その意味で、本書は韓国の現代史を示すだけでなく、東アジア(とりわけ朝鮮半島)の平和と民主主義、人権擁護のあり方を鋭く指摘するもので、隣国として深いつながりのある日本社会と私たちにとっても本書から学ぶことは多い。

 最近、韓弁護士のお話をうかがう機会を得た。韓弁護士が法律家としてどのような姿勢を貫いてきたのか。以下のことばを紹介したい。
 「上から下に法律を守れという命令的な法治主義ではなく、上向きの法治主義。権力を持っている上の人に対し、おまえたちも法律に従って統治をし、行動せよという、上向きの法治主義を実現するのが本当の法律家の使命だと思います。いま日本でも、韓国でも、その方向が全く誤っているのではないでしょうか。」

<法学館憲法研究所事務局から>
 NPO法人「人権・平和国際情報センター」が6月9日(土)に講演会「金大中氏の功績と『金大中図書館』」を開催します。韓勝憲弁護士がここで講演します。多くの方々にご参加いただきたいと思います。



 

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