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書籍『「東京電力」研究 排除の系譜』

H・T


最近、「差別」が世直しのキーワードになりつつある観があります。高橋哲哉氏の一連の「犠牲」概念の掘り下げ作業。小出裕章氏の「原発問題の本質は差別」等々。
斎藤貴男氏の本書も「排除」という名の「差別」を主題としていると思います。

考えれば、近代立憲主義は「自由・平等」を共通の革命概念としていました。このうち「自由」概念の核心は実力を身に付けた産業資本家の「経済活動の自由」でした。産業資本家こそ「市民」と称する実態でした。これに対して、「平等」は未だ「市民」に昇格できなかった庶民を「市民」が味方につける側面があり、かつ、「革命」にかける希望を見出した庶民の中核的な価値概念だったと思われます。

 本書は、東京電力の実像に迫る形で福島第一原発の事故を解明し、これからの日本の進むべき道を模索した、刊行して1か月の力作です。短期間によくぞここまでといえるほど各界の有名無名の多彩な人物に取材しています。経済ジャーナリスト斎藤貴男氏の面目躍如です。

 氏は豊富な資料を引用しつつ言います。「津波の危険も原発テロの可能性も、いわゆる原子力ムラとその周辺の人々は、すべて熟知していた。(中略)いつか必ずこうなるとわかりきっていて、それでも一切の手立てを打たない道を積極的に選択し、当然の結果として現状を招いたのである。最先端のテクノロジー及び知見と、原始的かつ超人的とさえ言える不誠実さとを練り固めた最悪の組み合わせこそが、この国の原発だったのだ。」。

 筆者は、この現状は、一言で言えば、タイトルにあるように、東電という巨大な会社の「排除の系譜」にあると見ます。東電は、木川田一隆氏、平岩外四氏という名社長・会長を輩出し、それぞれ経済同友会会長、経団連会長にもなり、会社経営と財界活動の双方を通じて日本経済を牽引してきました。2人とも財界の知性、良心とも称されました。

 しかし、戦後初期のころ、2人は、会社労務部の幹部としてコンビを組み、当時欧米と同様に形成されつつあった産業別組合の代表格だった日本電気産業労働組合(電産)の解体に辣腕を振います。すなわち、労組が福島県の水力発電所の電源を爆破すると企画しているというでっち上げ工作を行ったり(当時の福島県の「松川事件」が想起されます)、大量の労組活動家を解雇(レッドパージ)して、経営側に従順でない労働者の存在を認めませんでした。原発で働きその危険性を一番知っている故に住民と共に原発の建設に反対する従業員を処分し、思想信条、表現活動の自由も否定しました。徹底した「排除の歴史」です。

 なお、電産は、電力会社の公益事業性を重視して、経営者の他に、労働者や需要者代表も加えた第三者機関による監督を構想していました。
 
 この排除の論理は、「平岩レポート」に代表されるように新自由主義の思想をまとい、日本企業のあるべきビジネスモデルとして、勤労者の意識的な階層化、原発被害者の放置などにも現れています。

 筆者は、「原発に象徴されるこの国の経済社会はあらかじめ国民の人権を排除した『受忍論』を前提にして成立したものではないか。過去の延長線上で『がんばろう日本』『日本は強い国』とばかり経済大国の『夢をもう一度』を図れば、人間の命や尊厳など、以前にも増して軽視されていくのが必定だ。」「世の中に道理を獲得する。受忍論を許さない。私たちの社会と未来は、そのことにかかっている。」と結んでいます。「排除」からの「解放と自立」が必要だと。

 無数のインタビュー、逸話も、戦後日本史を彩る一つ一つの濃厚な資料としても大変興味深いものです。

【書籍情報】
2012年5月30日刊行。講談社。斎藤貴男著。本体1,900円+税



 

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