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書籍『「憲法改正」の真実』 

M・I

 従来からのマスメディアの言い方を借りれば「護憲派」の泰斗にして、憲法学界の最高権威、樋口陽一東京大学・東北大学名誉教授と「改憲派」の重鎮、小林節慶應義塾大学名誉教授による「憲法改正」論議の決定版とも言える一冊です。
 小林教授は、安保法案という名の戦争法案が成立して、最高法規である憲法が否定されてしまった現状は、権力者による憲法破壊が行なわれた異常な法秩序の中にいると指摘します。かつて「改憲派の自民党ブレイン」だった小林教授によると「我が国与党の国会議員の多くは、『そもそも、憲法とはなにか』という基本的な認識が欠如している」そうです。例えば2006年に衆議院憲法審査会の「日本国憲法に関する調査特別委員会」に参考人として呼ばれた時のエピソードでは、「権力というものは常に濫用されるし、実際に濫用されてきた歴史的な事実がある。だからこそ、憲法とは国家権力を制限して国民の人権を守るものでなければならない」という小林教授の説明に対し、高市早苗議員(現・総務相)が「私、その憲法観、とりません」と反論。その時、小林教授は「とる、とらないって、ネクタイ選びの話じゃねぇんだぞ」と思ったとのことです。
 博覧強記の樋口教授は、自民党の改憲草案を明治憲法どころか、それ以前の慶安の御触書レベルだと評します。なぜならば明治の法体系を作った政治家たちは立憲主義や天賦人権説などを理解していたからだと指摘します。例として枢密院で明治憲法草案を審議した時の伊藤博文首相と森有礼文相の有名な論争を挙げます。
 明治憲法草案第二章にある「臣民ノ権利」を森は「臣民ノ分際」にしろと主張します。臣民なのだから天皇に対して権利はなく、あるのは分際(責任)だというのがその理由です。これに対して伊藤は反論します。「抑(そもそも)憲法ヲ創設スルノ精神ハ、第一君權ヲ制限シ、第二臣民ノ權利ヲ保護スルニアリ」と述べます。伊藤は立憲主義をよく理解していました。ここまでは憲法の教科書に書いてあるところです。では、森は封建的な権威主義者だったのか。樋口教授はこの後の森の再反論を紹介します。「臣民ノ財産及言論ノ自由等ハ人民ノ天然所持スル所ノモノニシテ、法律ノ範囲内ニ於テ之ヲ保護シ、又之ヲ制限スル所ノモノタリ。故ニ憲法ニ於テ此等ノ權利始テ生シタルモノ ヽ如ク唱フルコトハ不可ナルカ如シ」。なんと天賦人権説です。森はルソーを知っていたのですね。天賦人権説を否定する自民党改憲草案よりよっぽど近代的です。
 樋口教授と小林教授が、憲法9条や明治憲法について「対立」しつつも、立憲主義や自民党改憲草案批判では一致し、さらに国家緊急条項や憲法制定権力、国民の「知る義務」など多彩な論点を繰り広げる本書は、刺激的な対論にして必読の教養書となっています。

【書籍情報】
2016年3月に集英社より発行(集英社新書)。著者は樋口陽一東京大学・東北大学名誉教授、小林節慶應義塾大学名誉教授。定価は760円+税。

【関連書籍】
樋口陽一『個人と国家—今なぜ立憲主義か』(集英社新書)
樋口陽一『今憲法は「時代遅れ」か—〈主権〉と〈人権〉のための弁明』(平凡社)
小林節・伊藤真『自民党憲法改正草案にダメ出し食らわす!』(合同出版)






 

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