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憲法情報Now<憲法関連書籍・論文>

 

書籍『ガチで立憲民主主義 壊れた日本はつくり直せる』

M・I

 数多い安保法制関連の書籍の中で、驚くべき異彩を放つ一冊です。安保法制により破壊された立憲主義を慨嘆し、安倍政権を糾弾する類書との一番の違いは、こうした絶望状況から脱出できる具体的な提言がなされている点です。
 主たる著者である水上貴央弁護士は、昨年の安保法制成立直前に開かれた横浜地方公聴会で、それが採決のためのセレモニーであり茶番ではないかとの発言で注目された名うての弁護士です。
 本書のi章「分析&提案」で著者は「安保法とは、日本国憲法に反する『違憲』の法律であり、そしてその『成立』過程は、日本の国会の歴史上、まったく例のない異常な事態だったのです。これほどまでに立憲民主主義が蹂躙されたことはありませんでした」と指摘します。そして、なぜ、どこが憲法違反なのかを今回パッケージで成立・改正された法案から具体的に解釈していきます。それは「事態対処法」に集団的自衛権の「新3要件」のうちの「必要最小限度」という字句がない点、「重要影響事態法」では後方支援の限定がない点、改正自衛隊法で自衛官個人に責任が押し付けられている点等々です。また同章の「『安保法』問題構造の整理と分析」では、内閣法制局の無効化、裁判所による判断が限定的であること、国会における自立的な解決手段の不存在等で、「日本の統治システムが、良識なき多数派の登場に対していかに脆弱であったか」を明らかにします。
 そこで「二度と現行政権が行ったような立憲民主主義の破壊がなされないよう、あらたな仕組みを整えていかなければなりません。」明確になった問題点は「a.違憲の疑いが濃い法案が十分な専門的審査なく採決されてしまう問題」「b.適切な民主的プロセスが多数派の判断で省略されてしまう問題」「c.それが議会内で適切に是正されない問題」の三つです。そこでこれらの問題を解決する三つの仕組みが考えられます。それは「@内閣法制局にかわる合憲性を判断する仕組みの構築」「A政府による人権侵害を国会が監視できる仕組みの構築」「B国会における審議プロセスが民意を無視したものとならないようにするための適切なルールの構築」です。ここからが本書の真骨頂です。
 まず必要なのは、従来、内閣法制局が行っていた作業を、政府から明確に独立して、当該法律案が憲法に適合しているか否かを検討し、国会の立法行為に対して適切な助言を与える機関・制度です。著者はA案として「最高裁判所による憲法判断告知制度」を挙げます。現行の「知財高等裁判所」の憲法裁判所版です。B案が「憲法適合性審査委員会」といった新たな諮問機関となる独立行政委員会の設置です。公正取引委員会が「資本主義の失敗」が生じないようにするための制度であるならば、これは「民主主義の失敗」を未然に防ぐ憲法の番人と言えるものです。
 次に、政府による人権侵害を監視する制度として、国会のもとに、専門委員会としての「憲法問題監視委員会」を設置し、行政による人権侵害が行われた場合に、その状況を分析・検討し、国会に報告するとともに、その結果を広く公開してその是正を求めるという仕組みを構築すべきと提案します。
 最後は民意を無視しないためのルールの構築です。具体的には@国会の適正運営のためのルール明示、A国民判断のためのインフラ整備、B国会内の不服申立機関の創出、C国民の声をより直接的に集約する仕組みづくりです。詳しくは本書に譲りますが、微に入り細を穿った提言は見事です。
 なぜこの様な法律や制度が必要なのか。それは「多数派が立憲主義を蹂躙し、民主主義を無視した議会運営を強行した場合、それが明確に違法と認定される制度をあらかじめ準備しておかなければ、『良識なき多数派』に対して無防備な統治機構となってしまうから」なのです。本書ではこれらの制度をまとめた「立憲民主主義促進法」の骨子も掲載されています。
 ii章「対話&視点」では、昨年、市民のためのシンクタンクを謳う「ReDEMOS(リデモス)」を一緒に立ち上げたSEALDsの奥田愛基氏、政治学者の中野晃一氏との刺激的な鼎談があります。
 そして最終章に「〈民主主義の失敗〉から描くグランドデザイン」があります。「ガチで立憲民主主義」を考えるにあたって、より長い視野で、私たちの社会をどのようにしていきたいかを考察した力作です。
 暗い政治状況にある日本から、明るく「フルスペックの希望」が見えて来る貴重な一冊です。

ReDEMOS(リデモス,市民のためのシンクタンク)

【書籍情報】
2016年6月に、集英社インターナショナルより発行(販売は集英社)。著者は水上貴央、中野晃一、奥田愛基。定価は1600円+税。
【関連書籍・論文】
中野晃一『「政権交代」とは何だったのか、どう失敗したのか』(岩波書店)
SEALDs編著『SEALDs 民主主義ってこれだ!』(大月書店)


 


 


 

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