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ブックレット『あたらしい憲法草案のはなし』

M・I

 抱腹絶倒のパロディ本であり、憲法の教養本でもある一冊で、奇書と言っていいでしょう。書籍タイトルはもちろんあの『あたらしい憲法のはなし』から来ています。終戦後の1947(昭和22)年、日本国憲法の施行された年に文部省(当時)が作成した中学1年生向けの社会科の教科書です。本書の巻末にも抄録されていますから、未読の方はそちらから読むのもいいでしょう。
 さて、2012年に自由民主党が発表した「日本国憲法改正草案」です。現在衆議院で三分の二を超える議席を有する与党ですから、今月の参院選で三分の二を超える議席を確保したら、この憲法草案が俄然現実味を帯びてくるでしょう。そこで自民党に代わり、この憲法草案の立法趣旨や具体的な適用場面を解説したのが本書です。著者は、「自民党の憲法改正草案を爆発的にひろめる有志連合(自爆連)」と称しています。
 まずは、憲法草案の新しい憲法の三原則です。それは、「一、国民主権の縮小」「一、戦争放棄の放棄」「一、基本的人権の制限」です。現在の憲法前文にある国民主権の文章の主語は「日本国民は」となっています。そのため「国民は自分たちがたいそうえらいものであるかのように錯覚してしまいます。」そこで新しい憲法草案では、前文がそっくり書き直され〈日本国は、長い歴史と固有の文化を持ち、国民統合の象徴である天皇を戴く国家であって、国民主権の下、立法、行政及び司法の三権分立に基づいて統治される〉となります。「主語が『日本国民は』から『日本国は』に変わっています。これは国民を必要以上につけあがらせてはいけない、という考えによるものです。」「また、この前文には、日本が長い歴史と伝統と文化をもつりっぱなくにであること、みなの尊敬を集める天皇をいただく、世界でもめずらしい、すばらしい国であることなどがしるされています。こんな前文ならば、国民もしぜんと国を愛する心をもつようになるでしょう。」「これまでの国民主権の考えかたは、『国民が国の主役である』というものでした。しかし、あたらしい国民主権の考えかたは『主役は国で、国民は国家の一部分である』というものです。あたりまえのことですが、国があってこその国民なのです。」「国民主権という名のもとで、国民が調子にのりすぎるのを防ぐために、国民主権を縮小するのです。ですから、みなさんも、日本国民であるならば、国民がいちばんえらいという国民主権などにこだわるよりは、日本人であることに誇りをもち、日本国有の文化と伝統を愛し、国家権力に協力して、日本のために尽くしてほしいと思います。」
 次に憲法草案では九条二項は〈前項の規定は、自衛権の発動を妨げるものではない〉に変わります。「いままでの九条は戦争をしないためのブレーキでしたが、あたらしい九条は、戦争をしやすくするためのアクセルといってもいいでしょう。自民党ではこれを『積極的平和主義』と呼んでいます。」「あたらしい九条によりますと、国防軍は〈国際社会の平和と安全を確保するために国際的に協調して行われる活動〉ができます。つまり、他国がはじめた戦争に協力して、世界じゅうのどこへでも国防軍は出かけていってよいのです。憲法九条を変えるもうひとつの目的は、大国がはじめた戦争に、日本も参加することなのです。」
 新しい憲法の三原則のうち二つについて引用しましたが、あと一つの「基本的人権の制限」については既に推測できると思います。いきすぎた「個人主義」を見直すのは言うまでもありません。更に安倍政権がこのところ力を入れている「緊急事態条項」新設の解説もあります。これで「強く美しい国」を目指す憲法草案の核心が明らかになります。
 以上、本書は和歌の本歌取り※1の伝統と『二条河原落書』※2の反骨が見事に融合した「良書」と言えます。但し、人権感覚もしくはユーモア精神の乏しい方にはお勧めできません(洗脳注意!)。いずれにせよ、日本国憲法公布70周年を賑わす一冊であることは間違いありません。

※1有名な古歌の一部を使い、換骨奪胎した新たな境地の和歌を作ること
※2京都の二条河原に掲げられ、後醍醐天皇の建武新政の混乱ぶりを批判した落書。「此頃都ニハヤル物 夜討 強盗 謀(ニセ)綸旨」で始まる。

【書籍情報】

2016年6月に、太郎次郎社エディタスより発行。著者は、自民党の憲法改正草案を爆発的にひろめる有志連合(自爆連)。定価は741円+税。

【関連書籍・論文】

伊藤真『赤ペンチェック 自民党憲法改正草案』(大月書店)

小林節・伊藤真『自民党憲法改正草案にダメ出し食らわす!』(合同出版)


 


 


 

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