法学館憲法研究所は、憲法を系統的に研究し、個人の尊厳の実現をめざす非政府組織としての自由な研究機関です

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書籍『立憲デモクラシー講座 憲法と民主主義を学びなおす』

M・I

 憲法学者や政治学者等が立憲主義を守るために結成した「立憲デモクラシーの会」の新刊です。2015年9月の安保法制の強行採決を受けて、一般市民を対象に開講された立憲デモクラシー講座の講義記録が基になっています。
 第T部「立憲デモクラシーとは何か—"二○一五年安保"から考える」は、山口二郎法政大学教授の「戦後七○年における政体の転換—立憲対非立憲をめぐって」、千葉眞国際基督教大学教授の「代表制民主主義と参加民主主義との確執」、中野晃一上智大学教授の「グローバルな寡頭支配vs.立憲デモクラシー」、三浦まり上智大学教授の「私たちの声を議会へ—代表制民主主義の再生」の四講から成っています。
 政治学者の山口教授は、戦後民主主義の歴史を綴り、立憲政体としての戦後体制が安倍政治により変質し、政党の中央集権化と、政治家の没個性化、それに反知性主義が結びついてしまった現状を指摘します。そしてそれに反撃すべく立憲主義と「個人の尊厳」の旗印を掲げてもう一度政権交代を起こすべきだと主張します。同じく政治学者の千葉教授は、代表制民主主義が国会内の「多数者の専制」に堕していく危機について、ジョン・スチュアート・ミルやシェルドン・S・ウォリンを引き、参加民主主義、信託型代表制を提唱しています。
 第U部「"憲法の敵"とどう戦うか」は、長谷部恭男早稲田大学教授の「憲法から見た放送規制」、杉田敦法政大学教授の「憲法九条の削除・改訂は必要か」、そして長谷部教授、杉田教授に石川健治東京大学教授の三人の座談会「緊急事態条項を考える」の三講からなっています。
 憲法学者の長谷部教授は、昨今話題になっている放送法を論じています。教授は、「放送法四条一項の条文は、そのままでは政治的公平性や論点の多角的解明という抽象的な要請を定めているに過ぎず」「漠然とした放送法四条の文言のみを根拠として、政党政治からの独立性が担保されていない主務大臣が放送事業者に対して処分を行えば、適用上違憲となるとの判断は免れがたいでしょう」と明解です。
 政治学者の杉田教授は「憲法九条の削除・改訂は必要か」で、最近のリベラル側からの「新九条論」=九条改憲論を批判します。この改憲論は、九条二項を「専守防衛に徹する陸海空の自衛隊を保持する」というように変え、集団的自衛権の行使をできないように縛りを掛けるという考え方です。しかし、これでは自衛隊の憲法上の位置づけが、いわゆる「普通の国」の軍隊と同じになってしまうと批判します。九条は平和主義の原理を示しているのだから、自衛の措置を否定するものではなく、自衛隊の存在と矛盾すると単純に言えるものではなく、憲法解釈の範囲内のことと、長谷部教授の説を紹介しています。日本国憲法の歴史的経緯から九条は立憲デモクラシーそのものであり、安易に改憲や削除はできないものと教授はまとめています。
 緊急事態条項に関する座談会も勉強になります。フランスとドイツの現在の緊急事態条項の比較やワイマール憲法と戦前日本の緊急事態条項の紹介があり、杉田教授は「緊急事態は、私たちの政治体制・法体制を守るために必要な措置と称して、実は体制を壊してしまう危険性がある」と指摘します。石川教授は「『備えあれば憂いなし』というならば、なぜ法律ではいけないのか。あえて憲法に盛り込むというのには、政府が命令によって何でも好き勝手にできるようにしたいという意図が隠されているのではないか」と本質を衝きます。長谷部教授の結論も「緊急事態条項は必要ありません。必要のないものをつくろうというのなら、何か別のことを意図しているからではと勘ぐる必要があります」と同様です。
 第V部は、樋口陽一東北大学名誉教授と三谷太一郎東京大学名誉教授による特別対談「戦後民主主義は終わらない—吉野作造の遺産を引き継ぐために」です。今年は、民本主義を唱えた吉野作造の「憲政の本義」論文から100年とのことで、対談では吉野作造から鈴木安蔵、新渡戸稲造、ポツダム宣言など多岐にわたり語らわれています。樋口教授は、安倍政権は「吉野から引き継いできた、戦前にさかのぼる日本の政治資産というものにも関心がない。関心がないから戦後民主主義はアメリカから押し付けられたものだと考える」「明治憲法時代からの政治遺産あるいは知の遺産をまったく無視しているというのが、二〇一二年の現政権成立以来、私たちの目の前に展開している状況だと思います」と指摘します。三谷教授も「私が戦後七○年にあたって望みたいのは、戦後七○年がもうワンサイクル続いてほしいということです。そうすると日本の国家は、世界で類例のない立派な国家になるのではないか。そのためには、何としても戦争という事態を避けなくてはいけません。そういう非戦のリアリズムを日本国民はこれから働かせていく必要があるのではないかと思っています」と熱い思いを語っています。
 まさしく本書は、題名にあるとおり憲法と民主主義の意味を学びなおす基本書として、広く市民の教養に資する一冊と言えます。

立憲デモクラシーの会

【書籍情報】
2016年6月に、岩波書店から発行。編者は、山口二郎法政大学教授、杉田敦法政大学教授、長谷部恭男早稲田大学教授。定価1800円+税。

【関連書籍・論文】
山口二郎『民主主義をどうしますか』(七つ森書館)

長谷部恭男・杉田敦『憲法と民主主義の論じ方』(朝日新聞出版)

長谷部恭男編『安保法制から考える憲法と立憲主義・民主主義』(有斐閣)

<法学館憲法研究所事務局から>
・この書籍の編者の山口二郎教授は以前当サイトの「今週の一言」にもご寄稿いただいています。



 

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