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書籍『最高裁に「安保法」違憲判決を出させる方法』

M・I

 タイトルから明らかなように、本書は2015年9月に成立し、翌16年3月に施行された安保関連法案を受けて、執筆されたものです。著者の生田暉雄弁護士は、元大阪高裁判事であり22年間裁判官として勤務していました。その間に知り尽くした最高裁を始めとする日本の司法制度の問題点を明解に論じています。筆者はまず、違憲訴訟を起こしても裁判所が違憲判決を下す確率は限りなくゼロに近いことを指摘します。事実、2015年に起こされた違憲訴訟は、地裁においてことごとく「門前払い」となり、控訴しても棄却されています。仮に、奇跡的に一審の地裁や二審の高裁で違憲判決が出たとしても、最高裁で必ず棄却されます。これは100パーセントの確率です。これはなぜか。この理由を読者に知らせることが本書の使命だと筆者は言います。
 第1章「最高裁が違憲判決を出せない本当の理由」では、今回の安保法制の論議の中でも登場した「砂川判決」を取り上げます。この事件では、第一審の東京地裁の伊達秋雄裁判長が「安保条約に基づく駐留米軍の存在は憲法9条が禁止する陸海空軍その他の戦力に該当するものであり、憲法上その存在を許すべからざるものといわざるをえない」と違憲判決を下します。狼狽逆上した政府は高裁を飛び越えて最高裁に「跳躍上告」を行います。最高裁はわずか8ヶ月で、逆転判決を下しました。その中で、日米安保条約の違憲性については「高度の政治性を有する」もので、「安保条約が憲法に反するか否かの憲法判断は司法裁判所の審査には、原則としてなじまない」とし、憲法判断を避けました。この時、最高裁長官である田中耕太郎長官は、駐日アメリカ大使とたびたび密会していたことが明らかになっています。ここでアメリカによる圧力があったことは容易に推定できます。
 これを契機に最高裁は、違憲判決が二度と出ないように個々の裁判官の統制し、全裁判官をコントロールする仕組みを作ったのです。これは「すべて裁判官は、その良心に従ひ独立してその職権を行ひ、この憲法及び法律のみに拘束される」とする憲法76条3項に違反します。しかし、この裁判官コントロールは、筆者に言わせると「裁判に関係したことが一度でもある人の間では、もはや自明のこと」であり、その結果、自分をコントロールする"上"ばかり見ている「ヒラメ裁判官」が増え、日本の裁判所は歪み始めたとのことです。
 第2章「日本人が裁判嫌いになったワケ」では、日本人の裁判嫌いは時の為政者たちが意図的に植え付けてきたものだと指摘します。裁判を受ける権利は、憲法32条で保障されているように、国民自らが自分の権利を実現する手段です。これは為政者にとって歓迎せざるものであり、裁判は邪魔な機能でしかありません。そこで「主権者である国民を裁判から遠ざけるために、あたかも国民主権実現の手段が選挙だけであるような喧伝も」してきたのです。この章では、なぜ日本に憲法裁判所がないのか、行政事件訴訟特例法がどのように作られたのか、行政訴訟がほとんど敗訴するカラクリなどがGHQの占領下に遡って明らかにされます。
 第3章「最高裁はこうして統制・支配する」では、筆者が弁護士になってからの裁判が語られます。訴訟の相手方は、国際石油資本のエクソンモービルです。訴えは、エクソンモービルが契約通りにガソリンを供給していない状況があり、契約を履行すべく取引の改善を求めたものでした。裁判は有利に進み、あと1回の審理で結審し、判決という段階に来ました。筆者側の勝訴は間違いありませんでした。ところが最後の審理の当日に、とんでもない事態が起こります。裁判長も2人の陪席裁判官も、前回までの裁判官ではなく、3人とも新しい裁判官に入れ替わっていたのです。
 最高裁にとって、日米関係に悪影響を及ぼす展開は捨て置けない事態だったのです。行政事件、国家賠償事件、社会的注目を浴びた顕著な事件、分野では「行政」「金融」「医療」「原発」そして、「安保法制」などは裁判所内部で「報告事件」と称され、最高裁による裁判官統制が行われる裁判となるとのことです。筆者の事件では、最高裁事務総局の人事異動による介入が行われ、筆者側が敗訴しました。
 第4章「告発!最高裁がひた隠す裏金問題」が本書で最も読み応えのある章です。ここでは「裁判官の報酬等に関する法律」の特異性が指摘されます。霞ヶ関などの国家公務員は客観性を有する第三者機関である人事院が報酬を決めますが、裁判官の場合、最高裁が意のままに報酬を決めることができるのです。本書には「裁判官・検察官の報酬俸給表」も載っていますが、この報酬月額ランク付けで、最高裁にもっとも従順で積極的に協力する裁判官が高給の1号の裁判官になれます。逆に「再審開始決定」など最高裁の意に反する裁判官は昇給が滞ることになります。「ヒラメ裁判官」が増えるはずです。4号から3号へ上がる裁判官は4号裁判官の3分の1、3号から2号、2号から1号への昇給も同様の3分の1の裁判官です。ところが報酬予算は全員分要求されるのです。つまり3分の2が裏金となり、これが最高裁による裁判官統制の"必要経費"に使われると筆者は推測します。ここは説得力があります。
 さて、筆者はヒラメ化(人事)とウラ金(報酬の予算)について公文書の公開という情報開示を最高裁に請求します。最高裁の回答は開示拒否でした。そこで公開拒否の取り消し請求を東京地裁に提訴します。ここでは請求棄却、東京高裁に控訴するも棄却、遂に最高裁に6つの憲法違反を理由に上告します。このあたり実に読ませます。これも上告棄却となります。そこで裁判官の報酬が、報酬俸給表に従った支給がされているか、裁判官予算の執行状況を検査すれば簡単にわかると考えた筆者は、会計検査院に裁判所予算の会計検査につき行政文書開示請求を行います。会計検査院の回答は、「開示請求に係る行政文書を作成・取得しておらず、保有していない」という理由で拒否されます。筆者は会計検査院に電話して追及すると、係官は「会計検査院は、日本国憲法発布以来、裁判官の予算に対する執行状況の検査はしたことがない」という返事でした。これはなぜなのか。筆者は「会計検査院が裁判官報酬の会計検査をしない見返りとして、最高裁は公務員の違法行為に対する国家賠償請求訴訟等、官僚の違法行為の裁判を厳格にして、官僚の違法行為を容易に認めないようにしているからだ」と鋭い推測をしています。最高裁と行政機関との闇取引があるのです。
 最後は第5章「最高裁に『安保法=違憲』判決を出させる方法」です。ここで筆者は、選挙に行くように、裁判しようと呼びかけます。「自らの権利を守るためには自らが行動するしかありません。その意味で私は、今日の日本における主権者のあり方は、『お客さん型主権者』から『探求型主権者』に転換することが求められていると考えます。」前者が、選挙に行くだけの受け身の主権者、後者が、おかしいことや権利侵害に積極的に裁判などで関わる主権者です。憲法12条の「この憲法が国民に保障する自由及び権利は、国民の不断の努力によって、これを保持しなければならない」の「不断の努力」がこれにあたります。
 筆者が読者に願っているのは、強い主権者意識を持ってもらいたいということです。そして、主権を実現する手段は選挙ばかりではなく、裁判という実現方法に着目してほしいということです。筆者の裁判についての3つの提言です。「あきらめないこと」「真実を知る努力をすること」「行動を起こすこと」。この「唯一にして最強の王道」こそ、本書タイトルの答えとなるのです。

【書籍情報】
2016年5月に、三五館から発行。編者は、生田暉雄元大阪高裁判事。定価1400円+税。

【関連書籍・論文】
安保法制違憲訴訟の会『安保法制違憲訴訟—憲法を取り戻すために』(かもがわ出版)




 

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