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書籍『戦争まで 歴史を決めた交渉と日本の失敗』 

M・I

 2010年に『それでも、日本人は「戦争」を選んだ』で小林秀雄賞を受賞した加藤陽子東京大学教授による中高生に向けた講演の第二弾です。今回も中高生を相手に豊富な資料を使いながら、実に刺激的な現代史を講義しています。
 加藤教授によれば、戦前に世界が日本に、「どちらを選ぶのか」と真剣に問いかけてきた交渉事は、三度ありました。一つ目は、1931年9月に関東軍の謀略によって引き起こされた満州事変に対し、国際連盟によって派遣されたリットン調査団の報告書をめぐっての交渉と選択です。二つ目は、1940年9月、ヨーロッパでの戦争と太平洋での日米対立を結び付けることになった日独伊三国軍事同盟の条約締結です。三つ目は、開戦の年の1941年4月から11月まで日本とアメリカの間でなされた日米交渉です。いずれもその後の日本国の進路を決定付けた交渉と言えます。加藤教授の講義では、それぞれの交渉をめぐるよく知られた「通説」や「俗説」が次々と打破されて、歴史好きにも目から鱗の一冊となっています。
 まずリットン調査団の報告書です。よく知られているのは、この報告書が満州事変を否定し、満州国建国を認めなかったため、国際連盟総会で松岡洋右代表が憤然席を立って国際連盟を脱退することになったというものです。しかし、話は単純ではありませんでした。リットンは満州事変の関東軍の行動は自衛と認められない、満州国は地域住民の中から自発的に生まれてきたものではないと日本側の主張を批判します。しかし、これを侵略とは述べていません。そして満州における日本人の居住権や商租権などの利権を認めます。思えば、団長のリットン卿は、大英帝国の代弁者とも言える存在です。植民地帝国の大先達であるイギリスが、植民地帝国の初心者日本に対して「名を捨て実を取れ」と言っていたのです。
 次に日独伊三国軍事同盟です。1939年9月1日、ナチス・ドイツはポーランドに侵攻し、第二次世界大戦が始まります。ドイツは破竹の勢いで、翌年にはベルギー、オランダに侵攻、パリに無血入城します。ヨーロッパでドイツに敵対している国はイギリスのみになります。ここで「バスに乗り遅れるな」とばかり、三国同盟締結となるのが通説ですが、政府内部で激しい対立があったのです。このことは、新聞ラジオに対する検閲で国民に知らされませんでした。更に興味深いのは、「日独伊提携強化に関する陸海外三省係官会議」です。言うなれば政策決定の実権を持つ実務者の会議です。ここで語られるのは何と「戦後」の話です。ドイツが勝つものと思っているのです。ここで明らかになるのは、敗者となったオランダ領インドネシア、イギリス領マレー、フランス領インドシナなどを日本の支配地とするために同盟を結び、ドイツを牽制するのが日本側の本音で、アメリカなどは一言も出て来ません。
 最後は1941年の日米交渉です。日本の暗号がアメリカに解読されていたのは有名な話ですが、実は日本もアメリカの暗号は9割方解読した事実が明かされます。日本はアメリカの謀略に引っ掛かった訳ではありません。ローズヴェルト米大統領も近衛首相も開戦に積極的ではなく、8月にはハワイでの首脳会談が実現一歩手前までいきます。最も驚くべき事実は、開戦直前の12月6日午後9時、ローズヴェルトは最後の頼みの綱の昭和天皇に、今一度交渉を呼びかけるメッセージの電報を出します。ところが陸軍はこの電報を東京の中央郵便局で15時間留め置くよう指示し、東京のアメリカ大使館に届く時間を引き延ばすのです。これではパールハーバーに間に合いません。加藤教授の指摘です。「大元帥である天皇に対して、アメリカの元首から送られた電報を、勝手に止めてよいと陸軍がこの時点で考えていたということ自体、統帥(軍隊の作戦・用兵を決定する最高指揮権)の崩壊といえるのではないでしょうか。国体の破壊者としての軍の存在が、開戦の直前に顕わになっている。」
 日本にも「ハーバード大学白熱教室」に匹敵する魅力的な授業があることがわかる本年度第一級の教養書と言えるでしょう。

【書籍情報】
2016年8月に朝日出版社より発行。著者は加藤陽子東京大学教授。定価は1,700円+税。

【関連書籍】
加藤陽子『それでも、日本人は「戦争」を選んだ』(朝日出版社)






 

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