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書籍『文学部で読む日本国憲法』

M・I

 異色の憲法書です。筆者は俳人であり、本書は東海大学文学部の講義の新書化です。法学部の講義ではありませんから、条文の解釈や判例分析などではなく、日本語の文章として憲法を読む試みがなされています。なぜ俳人が憲法を講義するのか。筆者によれば「日本国憲法が戦後の時代精神を考えるのに絶好の教材だから」とのことです。本書では、日本国憲法に書かれている国民主権(民主主義)、戦争放棄(平和主義)、表現の自由(基本的人権)の三つを読み込んでいきます。
 法学部の講義では出て来ない指摘の数々が刺激的です。筆者によれば憲法前文の「そもそも国政は、国民の厳粛な信託によるものであつて」とは、「国政を政府に託していいかどうか、ほんとうのところはわからないけれど、国民は政府を信じて国政を託したという意味」とのことです。なぜ「国民の信託」という人類史上、一度もなかったフィクションが書かれたかといえば、「それは明治憲法が、天皇が日本を統治する根拠とした『万世一系』という神話に対抗するため」だったのです。このあたり読み応えがあります。
 民主主義についても鋭い指摘があります。「近代民主主義とは最終的に数で決着する『数の政治』です。」「多数意見と少数意見、どちらが正しい選択かは問題ではありません。そもそも、どの意見が正しい選択か、判断できないからです。」「民主政治はなぜ誤るのか。有権者が賢明な判断を下したのに結果として誤ることも中にはありますが、ほとんどは有権者の思慮が欠けていて選択自体を誤るからです。」
 戦争放棄に関する章も明解です。「第九条は戦争放棄を命じています。これは外国とのもめごと(国際紛争)を解決する手段としての暴力つまり戦争を否定し、その一方で言葉つまり外交交渉による解決を求めているのです。もめごとは暴力でなく言葉で話し合って解決せよというのです」や「個別的自衛権の行使を『固有の自衛権』として認める解釈が常識によるものなら、集団的自衛権の行使を『固有の自衛権』として認めないのも常識です。法律の解釈は常識的であるべきです」は、まったくその通りです。また「明治維新は江戸幕府の旧体制を倒して天皇親政の新時代を開いた革命にもみえますが、その実態は尊王攘夷論を信奉する下級武士の青年たちによる右翼革命だったことを再認識しなくてはなりません」などというあっと驚く指摘もあります。
 いかにも文学者らしい筆者の結論です。「民主主義も平和主義も表現の自由もすべて言葉の問題に集約されます。明治憲法のもとでは三つの言葉はどれも厳しく制限されていました。(中略)戦後、この三つの言葉を一挙に解放したのが日本国憲法でした。では、日本国憲法が日本人に求めるこの三つの言葉を、戦後の日本人はどれだけ習得できたのか。いまだ習得したとはお世辞にもいえません。終戦から七〇年が過ぎたにもかかわらず、日本の戦後はまだはじまったばかりです。」
 日本国憲法を読んだことのない読者、法学に苦手意識のある読者にぜひお薦めする一冊です。

【書籍情報】
2016年8月に筑摩書房より発行(ちくまプリマー新書)。著者は長谷川櫂(はせがわ・かい)東海大学特任教授。定価は780円+税。







 

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