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書籍『デモクラシーは仁義である』

M.I

 筆者曰く「俺は民主主義を手放しで褒めちぎるほどおメデタくはないが、それでもヒットラーの言いなりになる人生が良いとは思えない以上、自分も他人をも説得できる『なのにギリギリでやっぱり俺たちの民主主義が大事なわけよ』と言える理由を知りたい」という人たちのために、この本を書いたとのことです。その言やよし。なんとも民主主義が危うい現状です。筆者の定義です。「デモクラシーとは、『自分の生活や人生に直接あるいは間接的に影響を与えるような決め事に対しては、直接もしくは間接的に物申す根源的な権利が平等に与えられている』という原則をもって、社会を運営していくことです。」
 第一章「そう考えるのも無理はない」では、デモクラシーのダメさ加減が数々の例と共に語られます。[1合意形成の効率化を—市場は待ってくれないし]では、ビジネス・パーソンからの市場に対応できないスピード感のなさが批判されます。[2一般市民には政策判断能力はない—政策エリートに任せよ]では、ソクラテスを死なせた衆愚政治、先進民主主義ワイマール憲法が生んだヒトラー、原発事故と専門家などが語られ、ここでも民主主義の出来の悪さが指摘されます。以下、[3民主主義とは多数決のことだ—デモなど要らぬ一発勝負]、[4世界は不平等じゃないか?—平等なんて絵空事だ]、[5民主主義は反日じゃなくねぇ?—民主政と国家意思]と次々にデモクラシーの疑問と疑念がリストアップされます。これらの悪口が本書のスタートラインになります。
 第二章「それでもやはり、デモクラシーを少し擁護する」では、第一章で列挙されたデモクラシーの悪口への反論がなされます。さらに古代ギリシアの時代から、専制政治や寡頭制、貴族制など様々な統治形態が議論されてきた中で、たったひとつ、デモクラシーだけが謳っているものがあると筆者は指摘します。「その政治システムや制度の正統性の根拠として、なんとデモクラシーは『それが人間を政治的に平等に扱う唯一のやり方だからだ』と政治的平等の理念を謳っているのです。」言ってみれば「デモクラシーだけが理念、つまり絵空事を根拠に自分たちの正統性を主張しているわけです。」これを具体的に実効性ある制度にするために必要となるのが、一人一票や秘密投票、情報公開、言論・表現の自由です。つまり「デモクラシーが大切なのは、それが人々に根源的な権利をもたらすからなのです。」
 100の悪口をデモクラシーにぶつける人には筆者は次のように問います。「あなたは謂れなき理由で、あるいはその時の統治者や為政者の都合によって、あなた自身が国家や社会の他者から差別的な扱いを受けたり、万人に認められるべき基本的人権を与えられなかったりすることを受け入れられますか?」これは「あなたは政治理念としての平等を否定できますか?」ということです。この問いに「それは到底受け入れることができない」と答えるならば、その人はデモクラッツです。「なぜならば、その時点であなたはデモクラシーという統治制度を道義的に判断(moral judgment)しているからです。」ここは鋭い。
 第三章「デモクラシーの処方箋」では、隠れた問題として一人一票、供託金、公職選挙法、経済格差、メディア等の問題を取り上げています。
 最後の第四章「デモクラシーのための習慣を変えてみる」では、「デモクラシーは複数の人間が協力し合いながら、可能な限り『良きこと』を共有しつつ社会を維持して運営していく、そのための社会技法」であることが明らかにされます。筆者は「政治は『我々の状況は今こうなっている。我々に今必要な共有認識とは○○である。そう考えるべきなのが我々の現実である』と、千万の言葉で世界を説明するという仕事です」と指摘します。そして民主政治を生きる有権者が政府をコントロールするためにやらなければならないことは、友人を作り、仲間を増やして、自分が世界に対して持つ理念や現実設計や展望を「言葉」にしてたくさんの人に印象付けることだと言います。何よりもいけないのは「言葉を介さない」忖度です。「そのためには、空気は読まず、言葉を選んで、空気に縛られず、言葉に縛られる他に方法はありません。どうすればそれができるかを真剣に考えねばなりません。これはとてつもなく重要な宿題です。」「我々は、配慮と想像力とおもいやりをもって政治に臨む必要があります。」
 奇を衒った書名ですが、民主主義とは何かを考える優れた教養書となっています。

【書籍情報】

2016年8月に株式会社KADOKAWAより発行(角川新書)。著者は岡田憲治専修大学教授。定価は800円+税。








 

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