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書籍『八年目の真実 −ある医療裁判の軌跡−』

M.I

 喜びでもあり希望でもある出産のため分娩室に母親が入ります。いよいよ子どもが生まれるのです。ところが産婦人科医から父親に告げられた言葉は「女のベビーが生まれましたが、どういうわけか呼吸しない」というものでした。赤ん坊を乗せた救急車が総合病院に転送された後、担当医は「脳に障害が残る」となかば断定的に言います。これがその後の八年にも及ぶ長い裁判の日々の始まりでした。
 本書は、浅田美香ちゃんと名付けられた赤ん坊とその両親や祖父母による克明な戦いの記録です。新聞やテレビのニュースでしばしば取り上げられる医療裁判ですが、裁判の提訴から勝訴を得るまでになんと膨大なエネルギーが必要とされることか、その凄さに圧倒されます。
 第一部「提訴」では、美香ちゃんが陣痛促進剤の不適切な投与により、脳に重大なダメージを受けたこと、担当医師の隠蔽工作、「陣痛促進剤による被害を考える会」の出元明美代表との出会い、自身も長女を医療事故で亡くした貞友義典弁護士の援助、我妻尭医師のアドバイスなどから遂に裁判に至る過程が描かれます。
 読み応えのあるのが第二部「裁判」です。訴状の提出から時系列に沿って裁判が逐一進行していくのですが、医療裁判に無縁なほとんどの読者にとって初めて聞くことばかりで、法廷の攻防に驚かされます。法廷自体も「ラウンドテーブル法廷」と言い、ドラマの法廷物でも見たことのないものです。そして、貞友弁護士と原告家族たちとの間には「法を知る」弁護士と「事実を知る」当事者の協同関係(cooperation)とでも呼ぶものが形作られていきます。
 「裁判においては、原告(被害者)の側の苦しみや怒りが争点として取りあげられることはありません。美香ちゃんがどう苦しみ、家族がどんなに悔しい思いをしているかは、争点の外におかれるからです。どう苦しみ、どう無念の思いをしたかではなく、なぜそういう事態がおこったのかという客観的事実が裁判の争点になります。」
 裁判に対する家族も少しずつ変わっていきます。「その変化を一語で表現するならば、事実にもとづいて筋道を立てて考えようとする『リーガルマインド』(legal mind 法的思考)の学習ということになるでしょうか。」「裁判に勝つためには執念や決断だけでなく、冷静に争点を整理する力や、争点の一つひとつについて論理と実証を重視するリーガルマインドが求められます。」
 そして被告担当医への尋問で裁判は佳境を迎えます。ここで担当医が「人の命と健康を大切にしなければいけないという医師としての最低限の倫理、使命感を欠いた男であること」が明らかになります。
 最終的に裁判は「原告の勝訴的和解」となりますが、以下の記述に胸が塞がれる思いとなります。
 「裁判がどのようなかたちで、終息しようとも、絶対に消えることのない一つの歴然たる事実が存在します。それは愚かな医師のずさんな行為によって、無限の可能性を有していた浅田美香という一個のかけがえのない生命の尊厳が、ずたずたに踏みにじられたという事実です。美香ちゃんはいまだに口からミルクを飲んだことがありません。母や父の声を聞くこともできません。声を発することもできません。寝返りもできず、寝ているだけで呼吸が苦しくなる世界。それが美香ちゃんの住む世界です。『脳性まひによる体幹機能障害。歩行、起立、座位不能。身体障害一級』、これが美香ちゃんの公文書上の病名と症状です。この事実は今後とも変わることはないでしょう。」
 これから出産予定の方、医師・看護師を目指す方、法曹志望者、医療裁判に興味のある方など多くの方に一読をお薦めします。

【書籍情報】
2016年8月に、ゆいぽおとより発行。著者は小早川淳。定価は1200円+税。

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