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書籍『憲法判例からみる日本―法×政治×歴史×文化』

M.I

 異色の憲法書です。書名から明らかなように憲法判例について、憲法学の外からの視点を取り入れることで、従来憲法学が充分に省察してこなかった点にも着目することを目的としています。従って、本書は日本国憲法をもっとよく知りたいという読者のみならず、日本をもっとよく知りたいという読者をも対象としています。なぜならば憲法判例を「読む」という作業は、戦後の日本の歩みを「読む」ことに他ならないからです。
 各章で採り上げられている憲法判例は、生存権ならば朝日訴訟、学問の自由ならば東大ポポロ事件、政教分離ならば津地鎮祭事件と、どの憲法の教科書にも載っている判例で、憲法学習者ならば「ああ、あの判例か」と分かっている気になりがちなものばかりです。ところが、一読そうでなかったことが判明するのが、本書の最大の醍醐味となっています。その理由は、本書各章が憲法学者とそれ以外の政治学や歴史学の専門家との共著となっているからです。
 各章の共通した構成にも工夫があります。まず冒頭に「この憲法条文に注目!」とあり、当該事件に関する条文が示されます。例えば「君が代起立斉唱事件」ならば、憲法19条の思想及び良心の自由です。そして、「あらすじ」があり、「この判例から考えてほしいこと」と問題提起がなされます。そして「判例を読む前に」として「憲法学習者のみなさんへ」で、言わば教科書の復習があります。更に「憲法に関心のあるみなさんへ」と題して、一般読者へのポイント整理があります。そして君が代起立斉唱事件ならば「音楽史からのポイント解説」、津地鎮祭事件ならば「神道学からのポイント解説」、東大ポポロ事件ならば「教育学からのポイント解説」と言った具合に、専門家からの解説が入ります。そして「事案」の簡単な紹介に続き、いよいよ「判旨」となります。この「判旨」のレイアウトが秀逸で、全くの法律初心者でも読めるように、小見出し、下線部、側注を多用しスラスラと読めるようになっています。その後「憲法上の意義」が明らかにされ、「この判例から見えるもの」でもう一度、音楽史、神道学、政治史などの専門家の立場からの解説がなされます。最後に「読者のみなさんへ」で当該判例の現代的意義などが語られ、「より深く学びたい方へ―参考文献」で結ばれます。
 読者の興味により、どの章からでも読めますが、「一票の格差」判決を計量政治学で考えた章や、そもそも日本に「みんなで歌う」ということがなく、日本という近代国家を作る上で国歌が生まれたことを指摘した君が代起立斉唱事件の章、戦前期に「非宗教」という取扱いがなされていたのは「神道」ではなく「神社」であったことや、内務官僚が創出し制度的に成立した「国家神道」(この語そのものも戦前の日本では学術的にもほとんど使用されていない)が国民に対して無力であり、なんらのイデオロギー効果を発揮できなかったということを指摘した津地鎮祭事件の章、議院内閣制という用語が和製表現であり、直接訳に当てはまる言葉はイギリスにおいても存在しないことや、イギリスにおける首相や内閣による自由な解散は、日本で作られた「神話」であったことを指摘した苫米地事件の章等々、注目すべき章が数多くあります。
 本書は、基本判例を振り返りながら、その法的、政治的、歴史的、文化的背景を通して、現代社会の諸問題に切り込むという、あえて古き革袋に新しき酒を盛った「温故知新」の教養書として広く読まれるべきでしょう。

【書籍情報】
2016年9月に日本評論社より発行。編著者は山本龍彦・慶應義塾大学教授、清水唯一朗・慶應義塾大学准教授、出口雄一・桐蔭横浜大学教授。定価は2500円+税。









 

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