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書籍『やっぱりあきらめられない民主主義』

M.I

 「地方自治は民主主義の学校」と言われます。これはイギリスの政治家・外交官のジェームズ・ブライスの言葉です。住民自身が、身近な地域の政治に参加することによって、民主政治の担い手として、住民自治を学び身に付けることができるというのです。本書は現職の東京・大田区議会議員である奈須りえ区議が、今もっとも旬な思想家の一人である内田樹氏と文筆家・隣町珈琲店主の平川克美氏を招いておこなわれた大田区民プラザの講演会の記録です。ちなみに内田樹氏は大田区の出身であり、平川克美氏は内田氏の幼馴染の友人です。
 奈須区議の問題意識です。「日本国憲法は国民主権をうたっています。その日本国憲法下の民主主義が、少数意見の排除どころか、多数の代弁でさえない状況を作ってきました。公平、平等な政治システムだと言われてきた民主主義ですが、なぜ、このような状況になってしまっているのでしょうか。」
 第一部の内田樹氏の講演「やっぱりあきらめられない民主主義」が読ませます。内田氏が衝撃を受けたのが昨年の夏、国会前の戦争法案反対デモSEALDs(シールズ)の若者たちの声です。「民主主義って何だ?」「これだ!」というあの声です。内田氏の感想です。「政治運動が持続的であるためには、生活と一体化していないといけない。生活そのものが政治であるようなものでなければ、息を吸うように息を吐くように、政治的な実践を行うことができるのでなければ、それは持続的なかたちを維持し得ないという僕の、共感されることの少なかった個人的な思いは、国会前で、はるかに若い世代によって、『ふつうのこと』として語られていた。」
 内田氏は「民主か独裁か」という二項対立はその図式そのものが間違っていると指摘します。なぜならば民主制から独裁制に移行した事例は歴史上、いくらでもあり、「民主から独裁へ」の移行はとても簡単であり、民主制と独裁制は、実は「相性がいい」からです。独裁の対立概念は共和制です。独裁の定義は「法律の制定者と法律の執行者が同一人物である」政体を言います。その上で、今の日本はどうかというと、明らかに共和制から独裁制に移行中とのことです。現に安倍首相はアメリカの議会で安保法案の成立を約束しています。これは安倍首相の脳内では、総理大臣が法の制定者だからです。日本においては事実上「法の執行者」と「法の制定者」が同一人物であることを国際社会に向けて公言したのです。日本のメディアは批判しませんでしたが、これは独裁宣言以外の何ものでもないのです。内田氏は「この時点で、日本は共和制であることを放棄したと、国際社会に認知され、国内的にも合意が成立したのだと思います。」
 続けて内田氏は、「病状1 機能不全の立法府」「病状2 ニヒリズムに陥る国民」で民主制の空洞化を分析します。そして病理の根本は、日本人が、国民国家も地方自治体も医療も教育もメディアも全部株式会社化しようとしている習慣病だと指摘します。株式会社にそっくりな国家のかたち、「民間企業みたいな政府」を国民が望んでしまったのです。
 そこで共和制です。「法の制定者と法の執行者が別機関であり、法の制定者である立法府の方が行政府よりも上位にあること、これが共和制です。共和制的な民主主義が、健全な民主主義のかたちである。僕はそう思っています。」共和制は決定に時間がかかります。「市民たちすべての意見をできるだけ取り込むわけですから、時間がかかるに決まっている。」「でも、僕たちは別に商売をしているわけじゃない。問題は、効率じゃない。政策決定の速度と政策の適切性の間には何の相関もない。」このあたり、その通りです。
 第二部は「暗くたっていいじゃない」と題する、内田樹、平川克美、奈須りえ三氏による鼎談です。こちらも鋭い指摘が多く読ませます。
 奈須区議の結論です。「自治体の住民の意識が変わると、自治体の議員が変わります。自治体の議員が変われば、都道府県や国の議員に様々な形で影響します。政治をあきらめず、自治体の政治に参画すること、自治する市民になることで、『民主主義って何だ』の答えをみつけに行きましょう。」

【書籍情報】
2016年6月に水声社より発行。著者は内田樹氏、平川克美氏、奈須りえ氏。定価は1500円+税。










 

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