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書籍『復刻新装版 憲法と君たち』

M.I

 時宜を得た名著の復刻と言えます。著者は、憲法学者の佐藤功(1915〜2006)です。最初の出版は、1955(昭和30)年、この年、自主憲法の制定を掲げる自由民主党が結成されます。初代幹事長となったのは安倍現首相の祖父岸信介でした。翌年には九条改正などを視野に憲法調査会が設置されます。「日本の民主化・非軍事化」を否定するいわゆる「逆コース」の時期でした。
 出版当時は、現在と違い、一般向けの憲法の教養書などはほとんどなく、ましてや子ども向けの憲法書などは無きに等しいものでした。日本国憲法の公布は、1946(昭和21)年、翌47年にあの有名な『あたらしい憲法のはなし』が、文部省から中学1年生用の社会科教科書として発行されます。子どもたちにこれほど日本国憲法の精神やその中身を平易に語った本も珍しいのですが、その後、50年に副読本に格下げされ、遂に52年から発行されなくなります。これも「逆コース」の一例と言っていいでしょう。
 そのような中で、ようやく中学生にも読める憲法の本が登場したのです。本書は著者が、中学生の子どもたちに語りかける構成になっています。さすがに60年前ですから、表現の時代性は否めませんが、昭和の頃の大人は、子どもにこのような口調で語りかけていたのかと実感できます。

 さて内容は、憲法が何のために作られたかをズバリ語ります。「どんな人間の生命でも、財産でも、幸福でも、それが第一のもの、尊いもので、国家というものは、このような人間の生命や、財産や、幸福を守るためのものだ。(中略)そのように人間の値打ち、尊さが守られるためには、政治がおこなわれる」場合に、どんな支配者もそれに従わなければならない規則があり、「そういう規則が、ほんとうの憲法なのだ」と指摘しています。まさしく立憲主義の神髄です。
 その後、マグナ・カルタ、アメリカ独立革命、フランス革命などの「人民の、人民による、人民のための憲法」が作られる歴史が語られます。さらにリンカーンのゲティスバーグ演説の話になります。そして結びです。「憲法というものの大切な意味を君たちは知らなければいけない。それは国という一番大きな社会のすべての人民の幸福をできるだけ高めるためにつくられている規則なのだ。そして、そのような憲法ができるまでには、君たちの先祖のたくさんのひとびとの血が流れていたのだということを、今の君たちもわすれてはいけないのだ。」このあたり憲法97条、最高法規の条文を彷彿させます。著者も97条「この憲法が日本国民に保障する基本的人権は、人類の多年にわたる自由獲得の努力の成果であって、これらの権利は、過去幾多の試錬に堪え、現在及び将来の国民に対し、侵すことのできない永久の権利として信託されたものである」を本書後半で引用し、「この中で、『基本的人権は人類の多年にわたる自由獲得の努力の成果であって、』といっている点が非常にたいせつなことだ」と指摘しています。

 「日本の憲法はどんな憲法か」の章では、福沢諭吉から自由民権運動の板垣退助、明治憲法の伊藤博文が語られ、大正デモクラシーの尾崎行雄まで登場します。このあたり子ども向けとして最高レベルです。
そして満州事変、五・一五事件と「軍部が、日本の政治を支配するようになった。」そして太平洋戦争の敗戦。「こういう政治のやりかたをゆるしていたのが、明治憲法だったというわけだ。」
 「君たちのおとうさんや、おにいさんや、親類のひとたちのなかには、軍人として大陸や南方の島じまなどで戦死をされたひともいるだろう。また戦死でなくても、戦地で病気になってなくなったひともいるだろう。また日本の内地でも家族のひとたちが空襲でしんだひともいるだろう。」当時は、子どもたちがこれを充分に理解できた時代だったことがわかります。そして新憲法です。「明治憲法のときにおこなわれたような政治を、二どとくり返さないというために、今の憲法は、民主主義の政治、基本的人権の尊重という二つのことを、非常にはっきりと定めた。」
 そして、「人間の尊さということが第一だということが、この憲法の中にはっきりと定められている。」として第11条「国民は、すべての基本的人権の享有を妨げられない。この憲法が国民に保障する基本的人権は、侵すことのできない永久の権利として、現在及び将来の国民に与えられる。」が示されます。次が本書の核心です。「また第一三条という規定には、『すべて国民は、個人として尊重される。』と書いてある。つまり国民は、どんな金もちでも貧乏人でも、どんな職業についているひとでも男でも女でも、そういうことには関係なく、みんな人間としての尊さ、値うちを持っているものなのだから、みんなそれぞれ、ひとりの人間としてたいせつなものだ、ということだ。だから、国の政治がおこなわれる場あいには、これらすべてのひとびとの基本的人権が一番尊ばれなければならないというわけだ。」

 更に特筆大書すべきは「憲法をやぶろうとするもの」という項目を設け、「憲法を守らなければならないはずの国会や内閣が、かえって憲法をやぶろうとすることがある。事情がかわったということで、憲法がやぶられようとする場あいがある。また、へりくつをつけて、憲法がつくられたときとは別のように憲法が解釈され、むりやりにねじまげて憲法がうごかされるということがあるわけだ」と語っていることです。さらに「多数党が、自分のことだけを考えて、国民のことなどどうでもいい、憲法などはどうでもいいと考えるような政党だったとしたら、その多数党の数の力で、憲法がやぶられるということにもなりかねない」とも述べています。60年後の今をあたかも予言しているようです。復刻された本書が色あせない所以でしょう。
 そして「憲法を守るのはだれの仕事だろう」という項目で「国民がしっかりと憲法を守ろうとし、国会やそのほかのものが憲法をやぶりそうになるのをふせぐということが、一番たいせつだというわけだ。そういう意味で、最後に憲法を守るのは国民の仕事だということになる。」
 結びは子どもたちへの呼びかけです。「民主主義と、基本的人権と、そうして平和、この三つはどうしても変えてはならない」「憲法が君たちを守る。君たちが憲法を守る。」

 佐藤功がなぜこれほどまで熱く子どもたちに憲法を語るのか、その原点と思われる逸話が残されています。敗戦後の1945年10月、憲法改正をマッカーサーから示唆された幣原喜重郎内閣は憲法問題調査委員会(松本烝治委員長)を発足させ、憲法改正作業に取り掛かります。佐藤功もこの委員会に補助員として参加します。この憲法改正要綱(松本案)が翌46年2月1日、毎日新聞にすっぱ抜かれます。その内容は明治憲法とほとんど変わらないものでした。政府は憲法改正要綱(松本案)をGHQ(連合軍最高司令官総司令部)に提出しますが、マッカーサーはこれを拒否、マッカーサー草案(GHQ案)を手交します。政府は仕方なくマッカーサー草案を閣議受諾し発表されたのが、帝国議会に提出される「帝国憲法改正草案要綱」でした。
 マッカーサー草案に接した時の佐藤功の言葉です。「マッカーサー草案を見て、声を上げて叫びたいほどの解放感を感じた。そこにちりばめられている基本的人権とか国民主権、個人の尊厳といったことは西欧民主主義の憲法を専攻する人間として助手の頃から勉強して知っていた。しかし、まさかそういうものが、他ならぬ自分の生きている日本社会の憲法の中に書き込まれるようになるとは、不覚にも思っていなかった。」

【書籍情報】

2016年10月に時事通信出版局より発行。著者・佐藤功、解説・木村草太。定価は1200円+税。

【関連書籍】
奥平康弘・木村草太『未完の憲法』(潮出版社)











 

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