法学館憲法研究所は、憲法を系統的に研究し、個人の尊厳の実現をめざす非政府組織としての自由な研究機関です

法学館憲法研究所

Mail info@jicl.jp
 
今週の一言
憲法情報Now
 憲法をめぐる動向
 イベント情報
 憲法関連裁判情報
 シネマ・DE・憲法
 憲法関連書籍・論文
 ■今日は何の日?
憲法Voice
研究所・客員研究員紹介
中高生のための憲法教室

憲法文献データベース
日本国憲法全文
リンク集
 
事務局よりお知らせ
賛助会員案内
メールマガジン
ご意見フォーム
サイトマップ

憲法情報Now<憲法関連書籍・論文>

 

書籍『日本国憲法と共に生きる 「真理と平和」を求めて』

M.I

 憲法学の泰斗による刺激的な一冊です。本書は著者の体験した二つの歴史的転換から構成されています。第一の歴史的転換は、大日本帝国憲法体制から日本国憲法体制への転換です。これは「日本型王権神授説的な天皇主権から『人民の、人民による、人民のための政治』を求める国民主権へ」の転換で、言わば「現代における日本の市民革命」でした。そして第二の歴史的転換は「日本国憲法下の憲法政治において、『解釈改憲』と『明文改憲』の二方法をとって提起され続けている日本国憲法の原理・規定を否定する動向です。」「とくに直近時においては、日本国憲法の立憲主義を根底から否定しかねない強権政治の様相さえも見られます。」
 第1章「『少国民』世代の憲法研究者が考えてきたこと—『真理と平和を求めて』」では、第一の歴史的転換を経験した著者の憲法の基本問題について憲法学者としての取り組みが語られます。
 第2章「『未完の市民革命』と『東西冷戦・日米安保体制』の下でほんろうされる日本の憲法と憲法政治」では、日本国憲法の制定が「現代における日本の市民革命」と言えるほどの憲法内容の転換でありながら、国民一般の憲法意識の明確な転換を伴っていなかったことが語られます。これは終戦後の「憲法よりもメシ」の段階で、新たに主権者となる国民に、自分の手で憲法を制定するために必要な時間の余裕も手続きも認められなかったからです。ここで著者は国民の憲法学習とそれによる主権者創出を重大な課題と指摘し、改正前の旧教育基本法の前文に注目します。「われらは、さきに、日本国憲法を確定し、民主的で文化的な国家を建設して、世界の平和と人類の福祉に貢献しようとする決意を示した。この理想の実現は、根本において教育の力にまつべきものである。」
 第3章「日本国憲法下の憲法政治(憲法の解釈運用)の動向」では、日本国憲法の立憲主義・憲法政治をゆがめてきた「東西冷戦」と「日米安保体制」が語られます。まず「反憲法政治の展開」として中曽根政権前までの憲法史、そして「反憲法政治の強化」で中曽根政権以降の段階、小泉政権による反憲法政治の強化とその後の三政権、近時における日本国憲法と国民生活の危機の深化と続きます。そして「『解釈改憲』の政治が日本国憲法の立憲主義を破壊して本格的な強権政治をもたらしかねないこと、および軍拡(反平和国家)と社会的格差強化(反社会・文化国家)の政治が、すでに危機的な状況にある経済・財政・国民生活を破綻に追い込みかねないこと、に注目したいものです」と結論付けます。
 第4章「どう対処するか(その1)—危機の諸要因をふまえた的確な対応を求めて」では、立憲主義確保の観点からの対応が語られます。ここからが杉原憲法学の真骨頂です。まず「『立憲主義』の再構築を求めて」として「安倍政権の憲法政治は、その『戦後レジームからの脱却』論、集団的自衛権論、公教育論などから明らかなように、日本国憲法の立憲主義や基本用語の概念を悪用・誤用して、立憲主義体制を粉砕し、『強権政治』に突入しかねない様相を示しています。日本国憲法の立憲主義と基本用語の概念につき、真摯な検討が、政界においても、憲法学界においても、そしてなによりも主権者・国民のなかにおいて、不可欠な状況にあるようです。『明日では遅すぎる』状況です」と危機意識を表しています。
 次にアメリカやフランスなど「下からの近代化」をした諸国の「近代立憲主義型市民憲法」と、ドイツや日本など「上からの近代化」をした諸国の「外見的立憲主義型市民憲法」を比較します。そして日本国憲法下の「憲法政治」における「立憲主義」を論じます。ここで集団的自衛権の行使容認は「憲法事項中の憲法事項とも言うべき軍事の基本問題を憲法外で処理するもので、一九三三年のヒットラー・ドイツの『全権授権法』・一九三八年の日本の『国家総動員法』類似の誤りを犯すものと思います」と断罪されます。また憲法の基本用語の悪用・誤用の問題に触れ、日本国憲法の国民主権の概念、「戦力」の概念、「立法」の概念が検討されます。更に「新しい人権」の問題と説明されがちな「知る権利」の保障は、「人民主権」を原理とする憲法体制下においては、「人民主権」に内在されるものとして、近代の初頭から当然のことと解されていたとし、アメリカ独立当時のペンシルヴァニアの権利宣言やフランスのロベスピエールの人権宣言案などのアッと驚く指摘もあります。
 第5章「どう対処するか(その2)—危機の諸要因をふまえた的確な対応を」では、憲法科学(社会科学としての憲法学)の成果をふまえた憲法政策学的な対応が語られます。ここでは、憲法政治における時代錯誤的な三つの反憲法的な動向の問題として、@現代・現在における戦争の手段性喪失と軍事支出の再生産外消耗性についての無視の問題、A現代・現在における「社会・文化国家」の意義の忘却に関する問題、およびBこの@Aの処理に不可欠な憲法学習と民主主義の軽視の問題が挙げられます。このそれぞれの問題につき、表やグラフなども示され第4章と共にもっとも読み応えのある章となっています。まさしく実践的憲法学の面目躍如の章です。
 著者のまとめの言葉です。「憲法と憲法政治の問題は、もともと政治家・官僚・裁判官や憲法研究者にまかせておけばすむような、憲法規定の解釈・運用・評価につきるものではありません。政治と社会の根本的なあり方を定める国民生活の根本問題です。」「主権者・国民による、日本国憲法の構造・意義の学習・理解と権力担当者の選任・監視・批判は、私たちの最大の課題です。」

【書籍情報】
2016年7月に勁草書房より発行。著者は杉原泰雄・一橋大学名誉教授。定価は2600円+税。

【関連書籍】
杉原泰雄『憲法読本 第4版』(岩波ジュニア新書)
杉原泰雄『憲法と資本主義』(勁草書房)












 

[今週の一言][憲法情報Now][中高生のための憲法教室][憲法文献データベース][事務局からのお知らせ]
[トップページ]