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書籍『おまえがガンバれよ』

M.I

 異色の弁護士体験記と言えます。著者独特の「緩さ」により、他国で法制度を一つ作り上げてしまった活躍が堪能できます。著者は、大学卒業後も就職せずにぶらぶらしていた頃、親や教授を納得させ、就職しない言い訳に司法試験を受験することにします。そこで受験指導校の受講料を親からせびり取り、受けた講義で伊藤真という講師に出会います。そして「伊藤真塾長への手紙」を書きます。塾長の返信が来ます。文末には「頑張って下さいね」との言葉がありました。後に著者は気付きます。「おそらく伊藤真は『おまえがガンバれよ!』と、当時の僕に対してもっとも的確な指導をしてくれていたに違いない。」伊藤塾長の真意に気付かなかった著者は、「ダラダラと生活を続け」、その後、29歳で裁判所で働きはじめ、弁護士になったのは35歳でした。
 弁護士になって2年目、2009年12月はじめのころに、JICA(独立行政法人国際協力機構)の「モンゴル調停制度強化プロジェクト長期派遣専門家募集」のお知らせを知ります。「JICA」も「モンゴル」も「調停」も知らずに、募集要項にあった実務経験5年も英語能力などの条件もないまま、著者は申し込みます。面接があり、その夜のうちになんと合格の連絡が来ます。
 2010年5月、著者は東京でのJICA専門家研修を受けた後、モンゴルに赴任します。プロジェクトは、モンゴルで調停を試行する予定のパイロット・コートという裁判所作りです。現地で著者はモンゴル側に上から目線で接すれば、絶対につぶされると直感します。そこで著者は、「今後、プロジェクトでは、基本的にモンゴル側を『接待する』という発想を基本方針とすること」にします。これが成功の鍵となります。調停がなくてもモンゴルの司法制度は成り立っているのですから、押し付けたらいけない。あくまで「接待」の気持ちで親しくなることが必要です。著者は言います。「僕は、JICAの法整備支援をする人が、世界を変えるとか、もっと小さくてもいい、国の法制度を合理化するとかと考えると間違えると思っている。」モンゴルの調停プロジェクトは、日本のイメージを良くしてもらう戦略だと考え、著者はあくまで接待要員としてがんばることを決心します。
 モンゴル側のワーキング・グループをひたすら間接的に側面援助をする著者の仕事が続きます。調停業務フローの作成や調停人養成研修を助け、パイロット・コートの調停中止危機などを経て、2012年5月22日に国会で調停法が成立します。著者は調停法の起草委員の一人でした。著者の起草は、調停法24条2項の「調停は、当事者同席を原則として行われる。調停人は、必要な場合にのみ別席調停を行うことができる」に最大の特色があります。日本の調停では、別席調停が原則だったからです。
 こうして2005年ごろまでは「調停」という言葉すらなく、2010年になっても法律家ですら調停についてはほとんど知らなかったという国が、2014年にモンゴル全国の裁判所で調停が始まり、2015年には国民の約7割が調停とはどんなものか聞いたことがあるまでになりました。同年の統計によれば、調停事件は約1万5000件も申し立てられており、これは、裁判になった民事事件・家事事件・労働事件の合計約4万5000件の3分の1に達する数です。それでも著者は「僕は本当にモンゴルで何もしていない。モンゴルで調停がうまくいった理由は、モンゴルの調停を作ったのが、僕でもJICAでも日本でもなくて、モンゴル人だったということに尽きる」とあくまで謙虚です。
 著者の言葉です。「もし、今、伊藤真の『おまえがガンバれよ!』という返しに対して、僕が『なんとかぼちぼちがんばってます』と答えられるようになっているとすえば、それは、2045日のモンゴルでの経験のおかげだ。」

【書籍情報】
2016年9月に司法協会より発行。著者は岡英男弁護士。定価は900円+税。




 

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