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書籍『密着 最高裁のしごと—野暮で真摯な事件簿』

M.I

 日本の三権の中でも、最もその内容が一般市民に知られていないのが最高裁判所でしょう。著者によれば「最高裁のことを地裁や家裁の大親分、ぐらいの大ざっぱなイメージで捉えているかもしれませんが、実はそこで働いているしくみは、まったく異なるのです。」この世間に知られていない最高裁の「しくみ」がよくわかるように、本書ではきわどい判断で注目を集めた訴訟が紹介されています。著者は毎日新聞記者であり、「日本の司法の粋が結集して、僕たちの通俗的なトラブルに白黒つける面白さ。てっぺんと底をぴたっと接続する最高裁の妙味」が味わえる一冊となっています。

 第1部は、「家族のあり方を最高裁がデザインする」と題した民事編です。
 第1章では親子関係不存在確認訴訟が取り上げられます。2014年7月、最高裁でDNA鑑定と親子関係をめぐる訴訟が、審理にかかりました。事例は妻が夫以外の子を出産し、DNA鑑定でもそれが明らかになったケースです。1審の家庭裁判所、2審の高等裁判所ともにDNA鑑定という科学技術を評価し、夫と子どもの親子関係を否定しました。ところが民法では「妻が婚姻中に懐胎した子は、夫の子と推定する」(772条1項)と、嫡出推定の規定があります。最高裁の結論は、「法律上の父子関係を取り消すことはできない」でした。最高裁は民法の摘出推定を優先させたのです。審理したのは裁判官5人で構成される第1小法廷で、多数意見3人、反対意見2人というきわどいものでした。ここでそれぞれの裁判官の意見が紹介され、その説得力ある論理は読み応え満点です。
 第2章はマスコミでも大きく取り上げられた夫婦別姓訴訟の大法廷判決です。ここでは最高裁の違憲審査権、憲法と法律の関係などが実に分かりやすく解説されます。夫婦別姓訴訟は「民法vs憲法」の憲法訴訟だったのです。結果は裁判官10人が合憲の多数意見、5人が違憲の反対意見となり、女性裁判官3人はすべて反対でした。3人は「結婚した女性の96%が夫の姓に変更していることは、女性が社会的にも経済的にも立場が弱いことや、さまざまな事実上の圧力が要因」であるとして、「夫の姓に変更することが妻の意思に基づいていたとしても、その意思決定の過程に、現実の不平等と力関係が作用している」と踏み込みます。そして「その点を考慮しないまま、夫婦同姓に例外を設けなければ、妻のみが自己喪失感を負うことになり、個人の尊厳と両性の平等に立脚した制度とはいえない」と言っています。このあたり現実を直視した意見であり説得力があります。

 第2部は、「市民が裁く罪と罰 手綱をにぎる最高裁」と題した刑事編です。
 第3章では裁判員裁判の本質を衝く解説があります。それは「市民による裁判員裁判が、死刑を選択した。しかし、その先の高裁で、プロの裁判官がこれを取り消した(破棄した)。最高裁は、どちらの判決を支持するべきか」という問題です。特に被害者が一人でも死刑を選んだ裁判員裁判です。ここで最高裁の死刑に対する考え方が紹介され、量刑ということを深く考えさせる章になっています。
 第4章では、求刑よりも重い刑を下した裁判員裁判が取り上げられます。ここでは「裁判員が市民の声を代表するといいますが、そもそもたまたま選ばれたわずか6人の裁判員が、市民を代表した声といえるのですか」という裁判員裁判の本質が問われます。ここでも最高裁の秀逸な判断が示され、さすが最高裁と感嘆させられます。
 著者の結論です。「最高裁って、下世話で知的で、ロジカルでウェット。」

【書籍情報】
2016年11月に岩波書店より発行(岩波新書)。著者は川名壮志毎日新聞記者。定価は840円+税。




 

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