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書籍『アメリカ 異形の制度空間』

M.I

 2016年の国際政治上の大椿事といえば、言うまでもなく主要メディアのほとんどがはずしたトランプ次期米大統領の誕生でしょう。改めてアメリカという国の不思議さに驚いた人も多かったと思います。しかし、気楽に話題にするアメリカとはそもそもどのようなものなのか、的確に説明することは誰しも困難です。本書は、この「アメリカとは何か」を語ったもっとも説得力ある教養書と言えます。
 
 著者によるアメリカの定義です。「〈アメリカ〉とは、たんに太平洋と大西洋を分割して南北に広がる大陸の呼称でもなければ、いわゆる合州国(USA)の略称というだけでもない。それは元来、一七世紀ヨーロッパに創り出された『ヨーロッパ国際法秩序』(国家間秩序)の外部に、その拘束を受けない『無主の地』とみなされた『例外領域』にもたらされた〈自由〉の制度空間の名前だと言うべきだろう。」
 第一章「『アメリカ』という呼称」では、この名の由来となったフィレンツェ生まれの航海者アメリゴ・ヴェスプッチと、新大陸としてこの名を採用し、最初に地図に書き込んだ27歳の無名の地図製作者マルチン・ヴァルトゼーミュラーが紹介されます。偶然で広がった不思議な名前の話です。
 第二章「〈自由〉の前史」では、アメリカの〈自由〉が、ヨーロッパ人によって「発見」された「無主の土地」とされたことに始まることが明かされます。
 第三章「キリスト教世界の転換」では、世界史好きには周知のことですが、新大陸の発見→宗教改革→ウェストファリア条約による主権国家の確立が実に手際よくまとめられ、ヨーロッパにとり〈アメリカ〉が〈自由〉の「解放区」になっていくことがわかります。
 第四章「所有にもとづく〈自由〉」では、〈アメリカ〉が、先住民を追い出し、自然の実在を「所有」へと転化することで成立する「制度空間」であることが明らかにされ、読み応えのある章になっています。著者は、ウーンデッド・ニーの大虐殺や「涙の道」に代表される先住民の悲劇にも充分目を配っています。
 第五章「独立革命と合州国の拡大」では、制度空間〈アメリカ〉が国家としてイギリスから独立し、当初の東部13州が太平洋まで拡大する歴史とそれに押しつぶされていく先住民の悲惨さが語られます。
 第六章「〈自由〉の空間としての『西半球』」では、あのジョン・ロックやホッブズの「自然権思想」が、「アメリカ発見」以後のことであり、「アメリカ」をモデルとしていたという盲点をつかれる見事な指摘があります。さて、大陸内部の「フロンティアの消滅」は、アメリカを海外に進出させます。そこでおきたのがスペインとの戦争(米西戦争、1898年)です。米西戦争は、ハバナ湾に停泊中の戦艦メイン号の謎の爆破事故を契機として始まります。著者の指摘です。「この米西戦争が今にして目を引くのは、原因不明の事件で犠牲者を出し、その報復として開戦するというパターンが、その後のアメリカの『自由のための戦争』で幾度も繰り返されてきたからである。『真珠湾攻撃』はさておき、ベトナム戦争時に北ベトナム直接攻撃(北爆)の口実となったトンキン湾事件、そして9.11と『テロとの戦争』、みな同じパターンである。それだけでなく、『敵』に対する誇大な好戦的キャンペーンや、暇になって『任務』を求めるアメリカ軍の事情、さらには財界にとって魅惑的なビジネス・チャンスといった要件も、二一世紀に入ってからの『アメリカの戦争』を思い合わせないではいられない。」

 問題なのは、この〈自由〉によって現地の人々が「解放」されるわけではないことです。「たしかに、アメリカによる『解放』は〈自由〉をもたらしはする。だが、それは誰にでも歓迎される『自由』だというわけではない。〈自由〉の恩恵に浴するのはその地の民衆ではなく、まずはアメリカの企業家や投資家であり、ついでかれらと手を組んで収益を独占する現地の所有者・富裕層である。というのは、アメリカのもたらす〈自由〉は、何よりもまず所有権にもとづく〈自由〉であり、持てる者がその権利を拘束なく行使しうる〈自由〉だからだ。」その通りです。「富裕層は『自由に』利益を上げることができてアメリカの支持者となるが、社会は分断され、貧富の差は拡大し、不安定な状況になる。」

 「アメリカの〈自由〉が外部に持ち出されると、きまって腐敗した親米政権が生まれ、ときに残虐な軍事政権さえ生まれて、それを〈自由〉のアメリカが支持するという構造がしばしば見られる(とくに南米で)。一時はそれが『冷戦』下の特殊な事情によるものと説明されたりしていたが、それよりむしろ、このような〈自由〉の内実に伴うものというべきであろう。」このあたり目から鱗です。
 そして最終章は「〈自由〉の繁茂と氾濫」では、名高い「アメリカ式生活様式」"american way of life"
の登場となります。ここで著者は冷酷な結論を用意しています。
 2016年出版の第一級の教養書と言える一冊です。

【書籍情報】
2016年10月に講談社より発行(講談社メチエ)。著者は西谷修・立教大学特任教授。定価は1700円+税。





 

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