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特集『18歳選挙権のインパクト』

M.I

 2016年夏に、いわゆる「18歳選挙権」のもとで初めての国政選挙(参議院選挙)が行われました。この特集は「18歳選挙のインパクト」と題し、18歳選挙権が法制度全体にインパクトを与えた端緒を各法分野から検討し、また学校教育の現場から政治教育や主権者教育を問い直すスケールの大きな構成となっています。
 まず斎藤一久東京学芸大学准教授が、18歳選挙権をめぐる憲法上の諸問題を検討しています。ここでは、そもそもなぜ16歳、19歳ではなく、18歳が選挙権年齢であるかから考察が始まります。これは端的に世界の趨勢ということで、世界199の国・地域の約9割が18歳選挙権を実現していると紹介されます。では、16歳選挙権はあり得ないのか。著者は、本来、義務教育制度を修了する、すなわち中学校を卒業した16歳が選挙権年齢でもよいと指摘します。現に、オーストリアや、ブラジル、アルゼンチンなどで16歳で国政選挙権が与えられており、「選挙の意義が理解でき、民主政治のにない手たる政治意識を持ちうる年令ならば、何歳でも『成年』に該当すべきである」とする学説や、「納税義務を果たしながらも、代表選出権をもたない勤労青年層がかなり存在することを、無視することはできない」という憲法学者の見解を紹介しています。そして日本でも諮問型の住民投票条例において、18歳以下の住民にも投票権を与えている地方自治体を指摘します。かつてマスコミで、平成の大合併の際に、村の合併を問う住民投票や、沖縄県与那国町の自衛隊配備を問う住民投票が話題になりました。著者の論考は更に「18歳被選挙権」や「不在者投票」が認められない場合が生じた現行制度の盲点にも触れています。

 各法からの検討は、憲法以下、民法(羽生香織上智大学准教授)、刑法(武内謙治九州大学教授)、子ども法(横田光平同志社大学教授)と続き、民法の成年年齢引下げや少年法の適用年齢引下げが、18歳選挙権との関係で論じられます。
 読み応えのあるのは「18歳選挙権と生徒の政治的自由/教員の政治的自由」を論じた二論文です。大島佳代子同志社大学教授は「学校内外における生徒の政治活動の自由」において、選挙権年齢が18歳以上に引き下げられたことを受けて高校生の政治活動を規制する文部科学省の「通知」のあいまいさを批判します。中でも「教育目的という正当化事由は、未成年の教育のためには人権制限もやむを得ないとの免罪符となる危険を孕んでいる」との指摘は正論です。またこれも新聞報道で大きく取り上げられましたが、2016年3月に愛媛県教育委員会がすべての県立高校に、新年度から校則を改定し、校外の政治活動に参加する生徒に、学校への事前の届出を義務化したことに対して、「憲法学の視点からみても、届出制は表現の自由に対する事前規制に当たり、その合憲性は厳格に審査されなくてはならない」と指摘します。「また、学外の政治活動を有権者たる生徒には認める(届出制を採るにせよ)一方で、有権者でない生徒に対しては一律に禁止することも許されない」と論は続きます。ここで有名な最高裁のマクリーン事件判決を挙げ「選挙権を持たない外国人に対して憲法上保障される政治活動の自由が、選挙権を持たない日本国籍を有する生徒にはなぜまったく認められないのか、未成年であるという理由だけでは正当化の根拠として不十分である」と痛烈です。そして結論です。文部科学省の「抽象的包括的な理由で生徒の政治活動を全面的に禁止しようとする態度は、別言すれば、選挙権を有するまでは生徒を政治活動から一切遠ざけようとするものであって、憲法上許されないだけでなく、主権者教育の観点からも極めて問題があるといえる。」

 堀口悟郎九州産業大学講師は「義務としての政治教育の自由」において、教育基本法14条2項の「法律に定める学校は、特定の政党を支持し、又はこれに反対するための政治教育その他政治的活動をしてはならない」という「教育の政治的中立性」の条項を大胆に読み換えます。「従来の学説は、教育基本法14条2項を政治教育の自由を制限するものとして把握し、その意味をなるべく縮減しようと努力してきた。しかし、政府から政策宣伝への加担を求められる局面においては、同条項はむしろ政治教育の自由を根拠づけるものとして把握することができる。すなわち、教員は、政治的中立性を保つ『義務』を負っているからこそ、政府への加担を拒絶する『自由』がある、ということである。この義務によって根拠づけられた政治教育の自由は、『義務としての政治教育の自由』と呼ぶことができるだろう。」

 特集は、斎藤准教授の司会する「18歳選挙権と政治教育、主権者教育」と題する座談会が続きます。ここでは現役の高校教諭などと現場での主権者教育や高校生の政治活動の自由が話し合われます。新岡昌幸北海道恵庭南高校教諭が面白い指摘をしています。「そこで気になるのは、公的な組織である学校が、生徒の私的な領域にまで介入することへのためらいが、多くの教師に欠如していることです。これは困ったことです。」この指摘は、教師には耳が痛いところでしょう。
 特集の最後は、やはり斎藤准教授の司会する対談です。これが驚愕で「麹町中学校内申書事件・所沢高校事件から考える18歳選挙権と政治教育、主権者教育」と題し、なんと麹町中学校内申書事件の当事者であった保坂展人氏(世田谷区長)と所沢高校事件の時の生徒会長だった淡路智典氏(東北学園大学講師)の対談です。戦後教育史のレジェンドの登場で、実に興味深い対談となっています。

【書籍情報】
日本評論社が発行する雑誌『法学セミナー』2017年1月号の特集。定価は1,400円+税。

【関連書籍・論文】
斎藤一久編『高校生のための選挙入門』(三省堂)
西原博史・斎藤一久編著『教職課程のための憲法入門』(弘文堂)






 

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