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書籍『「共謀罪」なんていらない?!―これってホントに「テロ対策」?』

M.I

 2003年、04年、05年と過去3度廃案となった共謀罪法案が、この通常国会に「テロ等組織犯罪準備罪」と名前を変え、再び提出されようとしています。本書は、共謀罪法案についての基本的な情報や市民社会に与える危険性について、市民が知識を共有するための啓蒙書となっています。本書は第1章から第5章まで、ジャーナリストや弁護士、刑事法学者などのスペシャリスト5人が、それぞれ共謀罪の問題点を指摘する構成となっています。
 「刑法はちょっと……。」という読者はまず第3章「共謀罪が制定されると刑法はどのように変質するか」から読むといいでしょう。足立昌勝・関東学院大学名誉教授が、刑法の基礎理論から平易に解説しています。
 まず18世紀の近代刑法の父ベッカリーアの『犯罪と刑罰』から「犯罪の尺度は、社会に与えた損害である」と指摘します。つまり「刑法は、結果が発生した『既遂の処罰』を原則とし、犯罪の実行に着手したが結果が発生していない未遂を例外的に処罰し、特に重大な法益については、犯罪の準備を行う予備を『例外中の例外』として処罰しているにすぎない」と大原則を述べます。
 社会に損害を与えなければ犯罪ではなく、「共謀は、まだ決意の段階であり、社会的損害を惹起していないので、無処罰が原則であることが前提とされなければならない。」更に「共謀罪規定を持つ法体系は、英米法系のみであり、その他の法体系では、共謀罪の単独処罰は認められていない」という一般的には知られていない指摘があります。日本は、明治維新以来の近代化でドイツ法やフランス法などの大陸法系の立場です。
 第1章の「安倍内閣が目指す『戦争ができる国』と共謀罪法案」は、フリージャーナリストの斎藤貴男氏による安倍政権が長く続く現代社会への警鐘です。特定秘密保護法も通信傍受法(盗聴法)も安保法制も成立しました。共謀罪の成立する世の中の息苦しさが実感としてわかります。
 第2章の「共謀罪は国会でどのように審議されてきたか」は、かつて衆議院議員として、衆議院法務委員会で鋭い論陣を張った保坂展人世田谷区長の実戦的共謀罪論です。保坂氏も「共謀罪が特異な点は、犯罪行為に及ばなくても、『二人以上で犯罪計画を示し合わせた時』に犯罪として成立するという点にある」と指摘。自身が国会で大林宏法務省刑事局長(後に検事総長)や南野知惠子法務大臣に質問した際の様子が再現されています。ここでは有名になったあの「目くばせ答弁」が紹介されています。刑事局長、法務大臣共に言語による会話や相談がなくても、黙認による共謀もあり、「目くばせ」という一種のサインだけでも共謀が成立することを認めています。「『目くばせ』でも共謀が『瞬時に』成立するとなると、捜査機関による現場での拡大解釈は意のままということになる」という保坂氏の指摘は重大です。共謀罪の成立は、まったくの「ケース・バイ・ケース」で捜査当局の裁量にゆだねられてしまうからです。
 第4章「『国連組織犯罪防止条約』批准には共謀罪法制は必要不可欠なのか」では、海渡雄一弁護士が、政府の共謀罪法制化の根拠の一つとされてきた国際組織犯罪防止条約について解説します。確かに同条約には「条約締結国は立法化すべき」と共謀罪の国内法制化を促す一文があります。ところが海渡弁護士によると同条約は、犯罪組織のマネーロンダリング(資金洗浄)の対策が中心であり、マネーロンダリングに関しては、既に日本に組織犯罪処罰法があり、これで処罰されているとのことです。そもそも同条約は、経済的利益を目的とする組織犯罪集団(マフィアや日本の暴力団)を対象とするもので、テロ対策のための条約ではないのです。
 そして条約で求められた「共謀罪又は参加罪」の立法措置は、アメリカ、イギリス、フランス、ドイツなどの主要国ではどこもこの条項に基づいて新たな立法を行うことなく、この条約を批准しているとの驚きの指摘があります。つまりそれぞれの国に既にある組織犯罪対策立法で充分だと判断しているのです。同様に日本でも組織犯罪集団に関連した主要犯罪については、未遂以前の予備段階から処罰できる法体制がほぼ整っていると海渡弁護士は述べています。共謀罪がどれほど必要なものなのか怪しくなってきます。
 第5章「共謀罪が要請する捜査手法が監視社会を招く」は、山下幸夫弁護士が、共謀罪がいかに監視社会に繋がるかを詳細に解説します。「もともと、共謀罪は、処罰を早期化されるものであり、また法益侵害に対する何らの危険も発生していない時点で、これを犯罪として捕捉するものであり、共謀罪が成立するかどうかは、捜査機関の恣意的な判断によって、いかようにも決められるおそれがある。」そこでは謀議の内容を把握するために使われるのが、盗聴捜査ということになります。海渡弁護士が描くのは、室内盗聴(会話傍受)、GPS機能を利用した捜査、電子メール傍受、行政盗聴と続くことが予想される恐るべき監視社会です。「テロ対策」の一言で、このような息苦しい社会になるのは、読者の誰もが嫌だという気持ちになること間違いのない一章になっています。

【書籍情報】
2016年12月に合同出版より発行。編著者は山下幸夫弁護士(日弁連共謀罪法案対策本部事務局長)。定価は1400円+税。

【関連書籍・論文】
木下智史『憲法とテロ対策立法』(日本評論社)
浦部法穂の「憲法雑記帳」第8回 共謀罪




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