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書籍『ポピュリズムとは何か 民主主義の敵か、改革の希望か』

M.I

 近年、ジャーナリズム界の流行語大賞といえる言葉の筆頭は「ポピュリズム」でしょう。しばしば「大衆迎合主義」や「人気取り政治」と貶められることも多い言葉ですが、今や世界を席巻している現象とも言えるでしょう。2016年には、イギリスのEU離脱があり、そしてアメリカのトランプ大統領の誕生でポピュリズムは頂点を迎えたかのようです。本書は、そのポピュリズムの歴史から各国での特質・政治情勢をわかりやすく分析した興味深い解説書になっています。著者は、ヨーロッパ政治史、比較政治が専門の水島治郎・千葉大学法政経学部教授です。
 第1章「ポピュリズムとは何か」で著者は、「ポピュリズムは、民衆の参加を通じて『よりよき政治』をめざす、『下』からの運動である。そして既成の制度やルールに守られたエリート層の支配を打破し、直接民主主義によって人々の意思の実現を志向する。その意味でポピュリズムは、民主的手段を用いて既存のデモクラシーの問題を一挙に解決することをめざす、急進的な改革運動といえるだろう」と位置付けます。とすると世上よく言われる「デモクラシーの敵」とは決め付けられないようです。
 第2章「解放の論理—南北アメリカにおける誕生と発展」では、ポピュリズムの起源をアメリカに求めます。ポピュリズムが政治現象として本格的に歴史に登場したのは、19世紀末のアメリカ合衆国の人民党、別名ポピュリスト党でした。これはあまり知られていません。その主張は、「普通の人々」に基盤を置いて既成政治を批判し、既得権益を激しく告発、一般に広く通用する分かりやすい言葉遣いにより、具体的かつ急進的な改革を訴えるものでした。このあたり昨年の米大統領選挙のバーニー・サンダース候補を彷彿とさせます。
 20世紀に入るとポピュリズムはラテンアメリカを席巻します。それは、1930年代当時のラテンアメリの大地主や鉱山王などの寡頭支配に対抗し、中間層や労働者、農民などの多様な支持層を背景に躍進し、政権を獲得し、さまざまな経済改革・社会改革を進めていきます。具体例としてラテンアメリカで最も豊かな国だったアルゼンチンのファン・ペロン政権が詳しく語られます。もちろんその妻のエバ・ペロン、あの映画などになった「エビータ」も登場するのが嬉しいところです。
 第3章「抑圧の論理—ヨーロッパ極右政党の変貌」では、1990年代以降に躍進したヨーロッパのポピュリズムが語られます。20世紀後半までは、ポピュリズムは後進的なものとして、ヨーロッパではほとんど言及されることがありませんでした。それがなぜここまで大きくなったのか。フランスの国民戦線、オーストリアの自由党、ベルギーのVBなどのポピュリズム政党を例として解説されます。なぜ極右政党が躍進したのか実に読ませる一章になっています。
 第4章「リベラルゆえの『反イスラム』−環境・福祉先進国の葛藤」では、デンマークとオランダが取り上げられます。デンマークと言えば、障害者の「ノーマライゼーション」で知られた福祉先進国であり、風力発電が発達した環境先進国としても知られています。また、オランダと言えば、「ワークシェアリング」の発祥の地であり、ワーク・ライフ・バランス政策や同一労働同一賃金を進めた国です。両国ともしばしば日本にとってモデル国とされていました。ところがそこにポピュリズム政党が出現するのです。日本では知られていない意外な事実が次々と明かされます。
 第5章「国民投票のパラドクス—スイスは『理想の国』か」も読ませます。思えば、戦後すぐの頃に日本は「東洋のスイス」たるべきなどという論調もありました。スイスと言えば、国民投票による直接民主主義で知られますが、皮肉なことにこの制度がポピュリズム躍進の最大の武器になってしまうのです。このカラクリが面白い。著者の指摘です。「そもそも国民投票は、諸刃の剣である。特に国民発案は『人民の主権』を発露する究極の場である半面、議会で到底多数派の支持を得られないような急進的な政策であっても、民主主義の名のもと、国民投票を通じて直接国レベルの政策として『実現』することが可能である。」
 第6章「イギリスのEU離脱—『置き去りにされた』人々の逆転劇」は、昨年ヨーロッパを震撼させたイギリスのEU離脱の核心に迫ります。日本でも数多く報道されましたが、誰もが予想していなかったEU離脱の国民投票が成立してしまう背景に何があったのか。著者は「二一世紀のイギリス政治で次第にあらわとなったのは、保守党対労働党という二○世紀型の二大政党間の対立というよりは、中間層の支持集めに汲々とする既成政党と、『置き去りにされた』人々との断絶であった」と指摘します。
 第7章「グローバル化するポピュリズム」では、いよいよトランプ旋風の登場です。これは日本でも詳しく報道された現象ですが、改めて本書を読んで納得です。そして今年のヨーロッパの選挙で注目されるフランスの「国民戦線」とドイツの「ドイツのための選択肢」を解説しています。
 著者の分析です。「現代のポピュリズムは、『リベラル』や『デモクラシー』といった現代デモクラシーの基本的な価値を承認し、むしろそれを援用して排除の論理を正当化する、という論法をとる。」「ポピュリズム政党の主張は、今や西洋社会の基本的価値の擁護と重なり合い、強い『説得力』を持つようになっているのである。」これは重大な指摘です。
 本書を読めば、新聞やニュース番組ではわからなかったポピュリズムの本質が明らかになります。まさしく時宜を得た教養書と言える一冊です。

【書籍情報】
2016年12月に中央公論新社より発行(中公新書)。著者は水島治郎・千葉大学教授。定価は820円+税。





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