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書籍『日本人の「戦争観」を問う 昭和史からの遺言』

M.I

 昭和史研究では定評のあるノンフィクション作家保阪正康氏の新刊です。書名にもなっている「日本人の『戦争観』を問う」の章で、著者は2015年の「戦後七〇年」を他の節目とは大きく異なるものと位置付けます。一つは、あの太平洋戦争を身をもって経験した世代と共有できる最後の節目となるであろうこと。もう一つは、安全保障関連法案の法制化で、集団的自衛権を容認することになり、自衛隊がより実質的な軍事力として活動できるようになったことだと言います。それは日本が「戦争できない国」から「戦争できる国」へ本質的に切り替わったという事実です。
 そこで問われるのが「戦争観」です。この「戦争観」とは、「わたしたちが戦争というものをどう考えるか。政治・軍事指導者だけでなく、防衛省と自衛隊、そしてそれを取り巻く国民一人一人の軍事に対する考え方、とでもいうべきものです。」「ところが、今の日本人に自衛隊を戦地に送る際の『戦争観』がきちんとできあがっているとは到底思えないのです。何しろ憲法で戦争放棄を謳い、これまで戦争をせずにすんできた国なのですから。」このあたり肯けるところです。
 その後、著者の独擅場である昭和の戦争史が語られ、ガダルカナル、インパールと無謀な戦いが繰り広げられますが、「あの戦争でそういった無茶な作戦が次々に実行された理由の大きな背景に、あの戦争が一種の『駆け込み戦争』だったことがあるのではないかと僕は考えています。要するにあの戦争は虎視眈々と緻密な侵略計画を立てて起こしたものではなく、外交的に追い込まれてあわてて準備して始めた戦争だったということです。だからいたるところに綻びがありました。例えば『開戦の詔書』を読んでみると、この戦争の目的が何なのか、どこにも書いてないのです。」そして著者は、無謀な戦争をやった原因は様々あるが、根本的なところにあるのは、この国が独自の「軍事学」、すなわち「戦争観」を作り出せなかったところにあると結論付けます。
 「日本人の『戦争責任論』を問う」と題した章も読み応えがあります。日本は、戦後、国として太平洋戦争の正当性や責任といったことを公式にきちんと検証したことは一度もありません。あの戦争全体を俯瞰して、それぞれの局面で誰が何を決定し、それが妥当なことだったのかという総合的な検証がなぜ、日本では国家レベルで出来なかったのか。著者は、その理由を考えると、やはり東京裁判に行き着くと言います。日本人の多くは東京裁判で一定の裁きがなされたことで、それで禊ぎがすんだとしてしまったのです。著者は、東京裁判を分析し、さらにそこに欠けている日本国民の視点を加え、戦争責任論を論じていきます。そして提案です。「僕は今こそ、この国が国家プロジェクトとして太平洋戦争に関する大がかりな検証委員会をつくって、あの戦争を総括しなければならないと思うのです。それは自衛隊がこれからより危険な現場に直面するようになる前にやらなければおかしいし、そもそもあの戦争に対する国家の総括なくして、この国は軍を動かしてはならないのです。」その通りでしょう。
 その他、「日本人の『戦没者への補償と追悼』を問う」、「日本人の『広島・長崎論』を問う」、「日本人の『昭和天皇論』を問う」のそれぞれの章すべてに、時代が変わりつつある今、日本人の戦争論に関する教養のスタンダードにすべき知識が満載です。
 最後に、著者の時代が変わったという実感が語られます。「時代が変わるというのは、国民の間で共有されていたこと、つまり『暗黙の了解』が世代交代で消えていくことなのだと思います。」「私たち世代の暗黙の了解とは、一言でいえば『あんな戦争はやってはいけない』というものです。それが大前提にあって、そのうえで右派、左派に分かれて議論をしてきたものです。」そして、改憲派が多数を占め、護憲勢力が風前の灯となっている現在の政治状況の背景にも、かつての「暗黙の了解」が消えつつある事実を物語っていると著者は言います。そこで「安保法制によって自衛隊の任務が拡大された現在ほど、昭和史からの教訓が必要とされる時代はないのではないかとさえ思います。」「この国が再び軍を運用するとき、私たちになにが問われるのか。戦後の日本人に、軍を運用するために必要な『戦争観』はあるのだろうか。」そして著者の最後の「小言」です。「自衛隊が戦場に送り出される前に、この国がもつべき軍事学とは何か、そして日本人がもつべき戦争観とは何かをもう一度、皆さんで考えてほしい。それが見えてこないのなら時期尚早、まだまだこの国は戦争をする資格はない、ということだけは言い残しておきたいと思います。」

【書籍情報】
2016年12月に山川出版社から発行。著者は保阪正康氏。定価は1600円+税。

【関連書籍・論文】
特集『靖国を考える』(「世界」)



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