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書籍『憲法改正とは何だろうか』

M.I

 昨年の参院選で、いわゆる「改憲勢力」が衆参共に3分の2を超え、憲法改正が国会でも論議されるようになりました。今こそ国民は憲法改正を真剣に考える時が来たと言っていいでしょう。本書は、憲法学の高見勝利北海道大学名誉教授によるまさに時宜を得た一冊です。
 第一章「憲法を変えるとはどういうことか」の中で、法律の制定手続きよりも厳格な手続きを要する「硬性憲法」が語られます。硬性憲法の持つ安定性という特性が、時に改憲賛成派にとって改正の難しさ故の不満を鬱積させ「危険なもの」、不安定なものとなる場合が指摘されます。そして憲法改正による体制転換は正当かという改正の限界の問題も詳細に解説されます。著者は、憲法学者の芦部信喜の説を採用します。「『立憲主義憲法』と評しうる憲法であるためには、『人間価値の尊厳という一つの中核的・普遍的な法原則』に立脚したものでなければならない。そして、この憲法をして憲法たらしめる『根本規範』ともいえる『基本価値』が、憲法上の権力である改正権をも拘束する。」その結果、国民主権、基本的人権の尊重、平和主義に重大な修正を加える改正は許されないことになります。
 著者の指摘は自民党の改憲案にも及び、現憲法13条の「すべて国民は、個人として尊重される。」を「すべて国民は、人として尊重される」とした書き換えに、立憲主義の基点から反対します。「この一字の削除は、そもそも『個人』とは、各々『人格』を有するがゆえに『尊厳』を保持し、立法その他国政上も最大限『尊重』されなくてはならぬ存在であるものを、単に各人の身体的・社会的属性に着目し、わけても家族を典型とする生活共同体の一員として、日本の歴史・文化・伝統との繋がりのなかで、その与えられた一定の役割を従順に演ずる存在へと貶めるものである。」これは痛烈です。
 第二章「憲法改正規定はどのようにして作られたか」では、戦後の憲法改正問題に触れます。天皇だけが改正を発議できる明治憲法を、あの「松本委員会」の憲法改正要綱では、「両議院ノ議員ハ各々其ノ院ノ議員二分ノ一以上ノ賛成ヲ得テ憲法改正ノ議案ヲ発議スルコトヲ得ル旨ノ規定ヲ設クルコト」となります。議会による改正案発議が最大の「憲法ノ自由主義化」であり、国民投票など眼中にありませんでした。興味深いことに国民投票まで考えていたのが、鈴木安蔵らの有名な「憲法研究会案」でした。このあたりマッカーサー草案によりひっくり返る他の改正条文と軌を一にしています。
 第三章「憲法改正手続法はどのようにして作られたか」では、憲法改正と国民投票法制の整備がワンセットとして語られてきたという指摘があります。そして「一九五五年の保守合同後における自民党長期政権は、憲法改正を党是に掲げつつも、歴代首相は、自らの政権下では憲法改正は考えていないと言明することで、むしろ、国民投票法制の整備を自ら封印してきたのである。」ところが、2007年の年明け早々、安倍首相が憲法改正を内閣の重点項目に掲げ、7月の参院選の争点とすることを明言し、通常国会での国民投票法案の成立に言及します。そして5月にはあわただしく国民投票法が成立してしまうのです。
 第四章「憲法改正手続きの何が問題か」では、国民投票法で問題となる主要な論点が解説されます。国民の過半数の賛成の意味や最低投票率制度、国民投票運動とその制限、改正の発議の問題点等々です。ここは少し難しい論点が多く、考え込む章です、
 第五章「憲法改正にどう向き合うか—安倍首相の憲法観と立憲主義」では、サブタイトル通りに安倍首相にとっての「憲法改正」が語られます。そこでは安倍首相の立憲主義の定義から権力分立原理が欠如している危うさが指摘されます。そして安倍首相の「憲法は国民の未来、理想の姿を語るもの」であることを強調し、「二一世紀の日本の理想の姿を私たち自身の手で描いていくというこの精神こそ日本の未来を切り開いていくことにつながっていく、こう信じております」という通常国会における演説に危険な改憲「精神」論を見ます。そして「欧米の首脳の前で、わが国は西欧の立憲主義諸国と『自由と民主、基本的人権の尊重、平和主義、法の支配』等の原理を共有すると言明、他方、国民に向かっては『個人主義』に立脚する立憲主義の諸原則をGHQ伝来の『悪しきもの』と貶め、わが国固有の文化・伝統、いわゆる『日本精神』に基づいて憲法を一新すべきだと説くのでは『二枚舌』だと評されても仕方あるまい」と本質を衝きます。安倍首相は、憲法改正を自己目的化しただけの「改正内容、改正がもたらす『結果』をなんら顧慮しない危険きわまりない改憲論者」なのです。

【書籍情報】
2017年2月に岩波書店から発行(岩波新書)。著者は高見勝利北海道大学名誉教授。定価は820円+税。

【関連書籍・論文】
高見勝利『現代日本の議会政と憲法』(岩波書店)




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