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書籍『音大生のための憲法講義15講』

M.I

 書名からは、異色の憲法書との印象を与えますが、実に興味深い教養書と言えます。著者は国会議員を経て現在、昭和音楽大学学長として憲法を講義しています。著者によれば、近代憲法と音楽はそれぞれ啓蒙主義の潮流の中で産声を上げ、大きな開花期を迎えたとのことです。そして「憲法を学ぶことは、天使と悪魔の両性を具有する人類が、理想を求めて悪戦苦闘してきた歴史を知ることである。そしてそれは、偉大な音楽家たちが、究極の美を求めて悪戦苦闘してきた歴史と完全に重なり合う。憲法と音楽には、そんな究極の共通点があると私は考える。」この悪戦苦闘の相手は封建的な身分制であり、近代憲法と音楽の間には、自由を求めてのあくなき挑戦という共通点があったのです。
 本書の一番の面白さは、憲法の基本概念の解説と共に、音楽と憲法の関連を示すコラムが随時掲載されている点です。その一つにモーツァルトとマリー・アントワネットが同い年だったというエピソードがあります。神童モーツァルトが、ウィーンのシェーンブルン宮殿に招かれ女帝マリア・テレジアの前で演奏したのが6歳の時、その時に女帝の末娘マリー・アントワネットと出会います。マリー・アントワネットも6歳でした。モーツァルトは1791年12月に35歳で死亡、マリー・アントワネットはその1年10か月後の1793年10月にフランス革命の動乱の中で断頭台の露と消えます。まさしく同世代だったのです。
 更に啓蒙思想家のジャン・ジャック・ルソーがオペラを作っていて、それがモーツァルトの最初のオペラの題材になっていたことも紹介されています。ルソーが「むすんでひらいて」の作曲者であることは、比較的よく知られていますが、モーツァルトとの接点まではあまり知られていません。
近代憲法を育んだ啓蒙主義思想は、音楽にも影響を与えます。「政治において王権神授説が否定されていくのと同様に、音楽は、神および支配者への賛美・奉仕の音楽から、人間自体を問いかける音楽に脱皮していく。その先駆けが、モーツァルトであり、ベートーベンであった。」

 本書の15講の憲法講義の中に「憲法と音楽文化」と題する講義があります。ここがいかにも音大生向けらしい講義で、画期的な意味を持った音楽振興法や文化芸術振興基本法などの解説があります。音大生に関係の深い文化予算の国際比較の指摘もあり、それによると日本の文化庁予算が国家予算全体に占める比率はなんと0.1%で、構成比ではフランスの10分の1、韓国と比較しても8分の1しかありません。更に、文化関係の人材育成予算は、国の予算全体の0.02%で、文化庁の言う「世界に誇るべき『文化芸術立国』の実現」との言葉が泣いていると著者は指摘します。
 最後の講義は「憲法保障と立憲主義の未来」です。著者の結論です。「独裁者が多くの生命を犠牲にし、果てしない流血の惨事を繰り返してきた愚かな人類の歴史。それを乗り越えるために、長い時間をかけてようやくたどり着いた『知の体系』が、憲法というシステムである。」「『憲法』というシステム自体が、いま大きな時代の試練にさらされている。だからこそ、あらためて、社会を統治するシステムとしての立憲主義の有用性を検証すべきであろう。そうすることにより、はじめて各人が、立憲主義こそ人類の到達した英知のシステムであると実感することができるであろう。日本国憲法の実効性は、すべて憲法制定権力を持つ主権者すなわち国民の努力にかかっている。」

 巻末に論考「フランス人権宣言のさきがけとなったヨーゼフ革命」という付録があります。オーストリアのハプスブルク帝国のヨーゼフ2世といえば、高校の世界史の教科書でも、プロイセンのフリードリヒ2世と並び、啓蒙専制君主として一行出てくるだけです。それもブルジョアジーの未発達による上からの改革と揶揄される程度です。しかし、本論考によればヨーゼフ2世の出した1791年の農奴解放令が革命的です。まず農奴制の廃止、さらにオーストリア臣民の結婚の自由、職業選択の自由、定住・移住の自由、領主からの自由、孤児の扶養を受ける権利などを認めています。フランス革命の人権宣言に先立つこと8年前です。さらにフランス人権宣言が「宣言」にとどまったのに対して、ヨーゼフ2世の勅令は、法規範としての実効性を持つものでした。また女性の人権にも配慮したものでした。モーツァルトやベートーベンの活躍の背景には、ヨーゼフ2世の改革があったのです。

 本書は「音大生のための」と銘打ってはいますが、平易にそして的確に基本を押さえた憲法入門書となっています。音大生のみならず、一般の方で、教養としての憲法を勉強してみようと考えている読書人はぜひ手にして欲しい一冊です。

【書籍情報】
2017年2月に共栄書房から発行。著者は簗瀬進昭和音楽大学学長。定価は1500円+税。

【関連書籍・論文】
長谷川櫂『文学部で読む日本国憲法』(筑摩書房)
西原博史・斎藤一久編『教職課程のための憲法入門』(弘文堂)





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