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書籍『教養としての世界史の読み方』

M.I

 昨今の出版界はちょっとした世界史ブームです。大きな書店に行けば「社会人のための〜」や「仕事に役に立つ〜」などと題した世界史本が数多く並んでいます。ところが奇妙なことにそれらの世界史本の著者は、ジャーナリスト、作家、企業経営者、評論家などで、肝心の歴史家・歴史学者による本がありませんでした。そのような中で、満を持しての歴史の大家の登場です。著者はローマ史の専門家ですが、「ローマの歴史の中には、人類の経験のすべてが詰まっている」という政治学者の丸山真男の言葉通りに、本書で教養としての世界史を実に明解に語っています。学校の教科書には載っていなかった話が多く、歴史好きには垂涎の一冊と言えます。
 著者が示す「七つの視点」が、各章のタイトルとなっています。その七つとは@文明はなぜ大河の畔から発祥したのか、Aローマとの比較で見えてくる世界、B世界で同じことが「同時」に起こる、Cなぜ人は大移動するのか、D宗教を抜きに歴史は語れない、E共和政から日本と西洋の違いがわかる、Fすべての歴史は「現代史」である、となっています。これがわかれば確かにグローバルスタンダードの教養を身に付けることができるでしょう。
 第1章「文明はなぜ大河の畔から発祥したのか」では、文明発祥に必須なものとして「乾燥化」を指摘しています。事実、四大文明など文明が発祥したとき、世界では大規模な乾燥化が進んでいたのです。これは『山川の世界史』を読んでいてもわかりませんでした。乾燥化により人々は水辺へ集中し、少ない水資源をどのように活用するか知恵を絞ります。ここに都市が誕生します。
 第2章「ローマとの比較で見えてくる世界」は、著者の専門ですから最も読み応えのある章となっています。ローマがなぜ興隆し、そして滅びたかがドラマチックに描かれます。歴史のサイクルの面白い例が出て来ます。アメリカで初のアフリカ系大統領バラク・オバマが就任したのは2009年。アメリカ初代大統領ジョージ・ワシントンの就任(1789年)から数えて220年目のことでした。ローマでも属州アフリカ(現在のリビア)出身の初の異民族皇帝であるセプティミウス・セウェルスが帝位に就いたのが、初代ローマ皇帝アウグストゥスの帝位就任のB.C27年から数えて、220年目のことでした。どちらも初代から異民族出身の為政者が登場するまで220年という、ほぼ同じサイクルで歴史が動いていることが見えてきます。
 ギリシアとローマとの比較も興味深いものです。ローマがなぜ帝国になれたかといえば、国内が比較的安定していて、その分のエネルギーを外に向けることが出来たことと、個よりも公共を重んじる国民性からくる国政システムのバランスの良さを筆者は挙げています。そしてローマは「寛容」でした。属州にラテン語を強要せず、中央から帝国各地に派遣された官僚(有力貴族)の現地での国家運営も自前の費用で行っていました。
 第3章「世界では同じことが『同時』に起こる」も興味深い章です。B.C202年、ローマは「ザマの戦い」でハンニバル率いるカルタゴに大勝し、ローマ帝国の礎を築きます。同年、中国では「四面楚歌」の故事で知られる、項羽と劉邦の決戦「垓下の戦い」が行われ、劉邦の勝利で漢帝国の基盤が築かれます。世界では離れた場所で、ほぼ同時期に同じようなことが起きている例は多いようです。
 第4章「なぜ人は大移動するのか」では、ゲルマン民族、モンゴル帝国、大航海時代などが次々と語られ、現代に至るユダヤ人迫害、黒人差別、ウクライナ問題、ISにも話は及びます。
 第5章「宗教を抜きに歴史は語れない」では、日本人の苦手な一神教の歴史が語られ、戦争は今のままの宗教ではなくならないとの結論に達します。
 第6章「共和政から日本と西洋の違いがわかる」では、「共和政と共和制の違いは何かというと、ごく簡単に言えば、権威に基づいて選ばれた人々による合議制なのか、選挙によって選ばれた人による合議制なのか、という違いだと言えるでしょう」といういかにも碩学らしい指摘があります。
 第7章「すべての歴史は『現代史』である」では、「歴史はすべて現代史である」というスタンスに立つことで「今」が見えてくることが示されます。「今」起きていることを正しく知るためには、歴史を知ることが必要なのだという著者の言葉には説得力があります。著者の結論です。「人間社会は繁栄すると必ず退廃していく。歴史はそのことを物語っていますが、われわれ人類は、まだどうすれば、この問題を解決できるのかという学びは得られていません。どうすれば退廃しない平和な社会を繁栄させることができるのか。これは私自身はもちろん、今を生きる一人ひとりが考えるべき歴史の命題だと思っています。」

【書籍情報】
2017年1月にPHPから発行。著者は本村凌二早稲田大学特任教授。定価は1800円+税。



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