法学館憲法研究所は、憲法を系統的に研究し、個人の尊厳の実現をめざす非政府組織としての自由な研究機関です

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書籍『日本国憲法の核心 改憲ではなく、憲法を活かすために』

M.I

 法学館憲法研究所編集の最新刊です。日本国憲法は2017年5月3日に、施行70年を迎えます。しかし、現在かつてないレベルで改憲勢力が日本国憲法「改正」の実現に強く邁進しています。そこで、70年を経た日本国憲法とこの国の歴史を踏まえて、日本国憲法の骨格の中心となってきた理念や価値の核心と真意をいま一度、現実社会にどう実現すべきかを考えてみるための取り組みの一つとして本書は企画されました。
 序章は「対談 日本国憲法の核心をみる」で、当研究所顧問の浦部法穂神戸大学名誉教授と当研究所客員研究員の森英樹名古屋大学名誉教授による総論的対談です。浦部教授は、いまほど「極右勢力」が大手を振って表にしゃしゃり出ている時代は、この70年間なかったと指摘、この「改憲」勢力というのは、旧憲法体制への回帰を目的としていると喝破します。森教授も、解散権があたかも「首相の専権事項」とされている現状に「憲法政治の劣化」を指摘します。浦部教授の結論です。「一刻も早く安倍政権をつぶすこと、あるいは、安倍氏に代表されるような『極右勢力』には権力を絶対持たせないこと、それに尽きると思います。」
 第一章「『国民が国の主権者である』とはどういうことか」では、木下智史関西大学教授が、日本国憲法における国民主権の核心を解説します。木下教授の結論です。「国民主権とは、ある地理的領域に暮らす人々がよりよい生活を送るための壮大な共同プロジェクトであり、それを実質化することは、『国民を支配する国家』からの抜本的転換を求めることでもある。そのためには、国民が『国の主人公』として相互に能動的に働きかけることが欠かせない。」
 第二章「憲法九条の深意とは何か — 平和主義の『積極化』と『現実化』」では、当研究所客員研究員の水島朝穂早稲田大学教授が、日本国憲法の平和主義の深意を解説します。興味深いのは最近の「新九条論」「護憲的改憲論」などの「現実的平和主義」に対する批判です。教授は「『規範と現実の乖離』が極限までに達しているという認識は正しいとしても、九条の規範力はなお存続している」と指摘します。それは安保法制において「自衛隊が『普通の軍隊』としての全属性を発揮できていないことによっても明らか」だからです。そして「憲法九条をめぐる危機的な状況のなかで、『規範と現実の乖離』を『現実』の方に傾斜させる機能を果たすおそれ」を心配し、「憲法九条に適合的な形に漸進的に『現実』を変えていく理論的な努力と営みこそ、平和主義の『現実化』とは言えまいか」と結論付けます。
 第三章「沖縄の自治への闘争から考える立憲地方自治」では、白藤博行専修大学教授が、辺野古訴訟での国による立憲主義、法治主義、地方自治の侵害を解説します。ここでは行政と司法による共同侵害が明らかにされます。そして安保・基地を優先する「安保の中の地方自治」に代わって、「憲法の中の地方自治」を保障する法治主義・法の支配の確立が喫緊の課題と指摘します。
 第四章「特定秘密保護法と表現の自由」では、当研究所客員研究員の村井敏邦一橋大学名誉教授が、戦後の秘密保護法制と表現の自由侵害の歴史、そして特定秘密保護法の制定の狙いと表現の自由への脅威を解説します。更に現国会で審議中の「テロ等準備罪法案」と名を変えた「共謀罪法案」の危険性も指摘します。
 第五章「憲法『改正』と軍事裁判所」では、白取祐司神奈川大学教授が、自衛隊が「国防軍」になった時に復活するであろう「軍法会議(軍事裁判所)」を解説します。普段なかなか語られない軍法会議の鋭い分析となっています。
 第六章「憲法『改正』問題への基本的視点」は、当研究所顧問の浦部法穂神戸大学名誉教授の論稿です。教授は「憲法はなぜ憲法なのか?」という根本的な問いから立憲主義や憲法改正を論じていきます。教授の結論です。「憲法改正は、本当にそれが必要だと国民が考えるのなら、どんどんやればよい。」「いずれにしても最も重要な要素は、国民が本当にそのような憲法の変更を必要と考えるかどうか、である。」
 第七章「『天皇は、象徴である』という憲法規定の核心的意味」では、当研究所客員研究員の森英樹名古屋大学名誉教授が、現在進行形である天皇の退位問題を論じます。教授は、日本国憲法における天皇制度の原点的核心・真意を明確にし、2016年8月8日のビデオ・メッセージを結論付けます。「天皇が、憲法には定めはないが、それ自体として内容上ただちに非難されることではない内容の『象徴としての公的行為』に勤しみ、それが『高齢による体力の低下を覚えるようになった頃から、これから先、従来のように重い務めを果たすことが困難になった』から、と退位をにじませている文面は、憲法から言えば『そんな公的行為はもともと憲法が認めていないのだから、憲法通りやめればいいのであって、いわゆる「公的行為」の多さを理由に退位することはない』と応答するのが筋である。」
 終章「主権者が主権者として権利を行使するとき」は、当研究所の伊藤真所長の論稿です。伊藤所長は、国民の政治的意思が、政治に適切に反映されているようには思えない現状の最大の理由を、意思表明の、最も重要な方法である選挙権においていわゆる「一票の格差」から一人一票が実現していないからだと指摘します。一人一票が確立していない日本は民主主義の国ではないと断定しています。
 次に伊藤所長は、一人一票の問題を、従来論じられてきた「一票の格差」の観点ではなく、統治システム論と人格価値の平等論から捉えます。このあたり、通常の憲法の基本書では論じられていないことですから読み応えがあります。特に一票の較差の問題を、憲法13条に規定する個人の尊重、人間の尊厳の問題として捉える点は説得力があります。「人間としての人格価値、すなわちこの世に存在すること自体の価値は絶対的に平等なのであって、そこに差を設けることは許されない。」「一人一票とは、その一人の個人が国家に対してどれほどの発言力があるのか、どれほどの政治的影響力があるのかを決めるものにほかならない。これが住所によって差別され、発言力一の者もいれば○.四八の者もいるというのでは(中略)これはまさに、人格価値への差別であり、憲法一三条が保障する個人の尊重、個人の人格価値そのものへの差別なのである。」「一人一票の問題を法の下の平等論で捉えるのはもう止めるべきである。」
 伊藤所長のむすびの言葉です。「私たちは、大きな視点で憲法を捉えながら、政治の動きを批判的に考え、その力をもって、主権者が主権者として権利を適切に行使することが求められている。そしてそれこそが、今を生きる私たちが主権者として負う、次の世代への責任だと考える。」

【書籍情報】

2017年5月に日本評論社から発行。編者は法学館憲法研究所。定価は1700円+税。

法学館憲法研究所HP事務局からのお知らせ

【関連書籍・論文】
『伊藤真が問う 日本国憲法の真意』(日本評論社)




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