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書籍『高校生のための憲法入門』

M.I

 2016年夏の参議院選挙は、「18歳選挙権」が初めて行使された国政選挙でした。高校生だから憲法なんて知らなくていいという時代は、昔の話となりました。選挙だけではありません。大学入試センター試験の政治・経済では、長沼ナイキ基地訴訟、全逓名古屋中央郵便局事件判決、三菱樹脂事件判決、津地鎮祭訴訟判決が出題されています。2016年のセンター試験の現代社会では、住基ネット判決、「石に泳ぐ魚」事件、国籍法の非嫡出子国籍取得制限事件判決、議員定数不均衡訴訟などが問われています。高校生にとって憲法は必須の知識の時代となっています。
 日本国憲法は1946年11月3日に公布され、1947年5月3日に施行されました。編著者によれば「個人の自由を確保することを最上の目的として、国家の権力を制限する憲法(constitution)というアイデアは、私たちの人類の歴史、そしてこの世界の歴史からすれば、意外に歴史は浅いのです。しかし、人類の英知を集めたものが憲法であり、日本国憲法もその一つなのです。」本書は、現代における憲法学の到達点を、高校生に分かりやすく説明するための書かれた一冊です。

 本書の優れたところは「はじめに」ですぐ「憲法99条 天皇又は摂政及び国務大臣、国会議員、裁判官その他の公務員は、この憲法を尊重し擁護する義務を負う」という公務員の憲法尊重擁護義務の条文を示し、憲法は国家権力を制限するものであることを明確にした点です。更に「人民の、人民による、人民のための政治」というリンカーンの言葉を引き、民主主義と憲法の関係を明らかにします。「法律は民主主義に基づいてつくられていますが、多数決によって決められるため、ときとして少数派の人権が侵害されるおそれがあります。ですので、法律よりも上位の憲法で人権を規定しておくことにより、多数決の専制に歯止めをかけているのです。」ここも明解です。
しかし本書の「はじめに」のユニークさは、以下の点に真骨頂があります。「憲法の勉強をしてくると、『国=正しい』という感覚がだんだん麻痺してくるんです。憲法は国家権力を制限するものですから、今の政治状況を常に憲法の観点から眺めることになります。つまり批判的な眼で見るようになるのです。しかし、このような『権力への懐疑』は私たちが市民として生きてく上で重要なリテラシー(理解し、分析し、使用できる能力)です。本書を通して、ぜひこのようなリテラシーも身に付けてほしいと願っています。」ここは何気なく書いてありますが、重要なところでしょう。

 第1章「人権」は、高校生の18の質問に答えるレクチャー、第2章「統治」は、8つの質問に答えるレクチャーの形式で書かれています。例えばプライバシー権についてのレクチャーの中では、「新宿区立の中学校を卒業した場合、区の個人情報保護条例に基づき、内申書の開示請求を出すことができるのです。内申書の原本である指導要録も開示請求できます。このような請求はプライバシー権に基づくものです」と、いかにも高校生が興味を引きそうな具体例が出て来ます。もちろん入門書とはいえ憲法の勉強はしっかりとできます。プライバシー権ならば、有名な「宴のあと」事件、前述の「石に泳ぐ魚」事件が取り上げられ、信教の自由(政教分離原則)では、津地鎮祭訴訟のみならず、愛媛玉串料訴訟から空知太神社事件まで出てきます。新しいところではネット社会と少年犯罪の実名報道、ブラックバイト、奨学金問題などが採り上げられています。
 力の入っているのが「9条と沖縄」と題するレクチャーです。日本国憲法9条が引かれ、定番の「自衛隊は合憲か」だけではなく、南スーダンへの自衛隊派遣などのPKO、集団的自衛権を認めたいわゆる「安保法制」も解説されます。そして沖縄問題です。基地だらけの沖縄県が図解されています。そして沖縄にある「命どぅ宝(ぬちどぅたから)」という言葉が紹介されます。これは「命こそ一番大切だ」という意味です。結論です。「沖縄の人たちが、沖縄戦で多くの犠牲を払った後に獲得した言葉と言えます。『命どぅ宝』はまさに日本国憲法のもっとも重要な価値ではないでしょうか。」

 また章立てとは別に、16のコラムが執筆され、高校生にとっての面白い読み物となっています。その中には、昨年の甲子園で話題になった女子マネージャーのグラウンドからの退場問題や、2015年に認められた同性婚の米最高裁判決と東京都の渋谷区や世田谷区などの同性カップルのパートナーシップ証明、トランプ米大統領が頻発させる大統領令と合衆国憲法、沖縄国際大学ヘリ墜落事件などの話題があります。最後のコラム16は「憲法を学んで高校教員になる—奥平康弘先生に学ぶ」と題され、現在高校の社会科教員であるコラムの著者による一文です。著者の恩師、2015年に亡くなった憲法学者の奥平康弘氏の著作の一説が引かれます。「『憲法が保障する権利』は、われわれの外なる・他者としての憲法が、あるいはその他の誰かが、われわれに与えたものなのではなくて、それを手掛かりにしてわれわれが—解決・行動をつうじて、制度にはたらきかけることによって—たえず創造してゆくものなのである。」コラムの結びはこうです。「『君はいま、平和についてどんなことを考えている?』奥平先生が、亡くなる直前に、奥様に問いかけたことだそうです。高校生のみなさん、『君はいま、平和についてどんなことを考えている?』」

【書籍情報】
2017年5月に三省堂から発行。編著者は斎藤一久東京学芸大学准教授。定価は1200円+税。

【関連書籍・論文】
斎藤一久編著『高校生のための選挙入門』(三省堂)



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